「否定されたら、きっと致死量くらいの血が流れちゃう」長濱ねるが“裸の自分”を曝け出さない理由 ふかわりょうと語った本当の自分〈後編〉

対談・鼎談

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ひとりで生きると決めたんだ

『ひとりで生きると決めたんだ』

著者
ふかわ, りょう, 1974-
出版社
新潮社
ISBN
9784103537922
価格
1,540円(税込)

書籍情報:openBD

ずっと会いたかった

[文] 新潮社


ふかわりょうさんと長濱ねるさん

 タレント・エッセイスト・女優として活動をしている長濱ねるさんと、お笑いタレントとして数々のバラエティ番組に出演し、「ROCKETMAN」名義での音楽活動、コラムやエッセイなどの執筆と幅広く活躍するふかわりょうさん。

 マルチに活動していること以外、もっとも遠い存在な気もするお二人だが、初対面にして意気投合し、「わかる!わかる!」の連発に。絶妙にシンクロし合うのはなぜか?

 ふかわさんのエッセイ集『ひとりで生きると決めたんだ』の刊行を記念して実現した対談にて、お二人が互いの共通点や悩みを本音で語り合いました。(前後編の後編/前編を読む

どうしてもできなかった「アレ」

ふかわ 今作のタイトルにもある「ひとりで」という意味では、長濱さんはお仕事をする上で、少し前に「グループ」から「ひとり」になったわけですが、心境の変化はありましたか?

長濱 これも先ほどの話と繋がるのですが、何事も考えすぎてしまう私の癖は、集団行動では結構厄介でした。例えば、楽屋でメンバーと一緒だけど一人になりたい時、それこそイヤホンをしたら「話しかけないで」ってアピールしているみたいでちょっと感じが悪いから、本を読むことにしていました。読書ならば、ゆるやかに、柔らかく、周りと距離を取ることができるから……。

ふかわ いや本当に、最高ですね。大部屋の楽屋で、イヤホンで音楽を聴くか読書をするかというのを、自分の欲求ではなく周りとの関係性で悩んで決めているわけでしょう。もうすぐに、それで4000字書けちゃいますよ。同じようなことで言えば、私も家を出る前に、玄関でサングラスをするか否かで15分以上考え込んでしまいます。

長濱 わかる! すごくわかる!!

ふかわ 「芸能人だからってサングラスかけちゃって。お前なんて別に騒がれねーよ」という声と、「何お前、堂々と素顔さらして。誰かに見つけて欲しいのかよ」という声が頭の中で延々と言い合いをして、結局出かけられないという……。

長濱 私はそれを打開すべく、最近、メガネにサングラスのレンズをカポッと被せられるタイプを買いました。紫外線が気になるので、外ではサングラスにして、楽屋入りのときにはその部分を外しています。「長濱、イキがってるな~」って思われないように(笑)。

ふかわ それは私より重症かもしれませんね(笑)。今のお話で感じたのは、私も「自分を客観視する冷静な自分」が常にいて、その自分が、例えばみんなが盛り上がっている瞬間、その“ノリ”に全力で乗っかることを邪魔してくる傾向にあるのですが、長濱さんも同じようなこと、ありませんか?


長濱ねるさん

長濱 ……ふかわさん、アレできますか?

ふかわ えっ、何ですか!?

長濱 円陣になって、伸ばした手を重ね合わせながら、「おー!!」って大きな声を出す、アレです。高校生のとき、私はどうしてもアレができなかったんです。無心で手を伸ばせばいいのに、って思いながら、どうしてもできなかった……。

ふかわ なんで、できなかったんだと思いますか?

長濱 うーん……まだ言語化できないです。

ふかわ ちなみにそれを求められたときの状況って、どんなでした?

長濱 高校の体育祭でした。

ふかわ 何の種目ですか?

長濱 ムカデ……ムカデ競走でした。

ふかわ ムカデ競走!? 長濱さん、それは円陣で手を伸ばさなきゃだめですよ、チームのみんなと呼吸を合わせなきゃいけない競技ですから! 「明日、体育祭だね~頑張ろうね~」っていう、軽いノリの円陣とはワケが違うでしょう!(笑)

長濱 はぁ……やっぱりそうですか。こういう、ある種の頑固さが、自分ではすごく嫌なんです。嫌だし、恥ずかしい。

ふかわ でも、たかが円陣、されど円陣で、今日こうしてお話ししてみて、長濱さんのイメージがガラッと変わりました。メインストリートをまっすぐに歩かれている印象が強かったので。

長濱 お仕事では、例えば番組を作るスタッフさんやインタビューをして下さる方が求める「長濱ねるのイメージ」に、できるだけ添いたいな、と思うんです。それが私なりの誠実さというか……。

ふかわ ある種、鎧をまとって戦ってらっしゃる。私も若い時、同じような気持ちだったので、よくわかります。それもすごく素敵な姿勢だと思いますが、でもきっといつか、その鎧を取っ払って、生身の体で勝負したくなるとも思いますよ。


ふかわりょうさん

長濱 今はまだ、怖いかも……。生身で勝負して、もし否定されたら、きっと致死量くらいの血が流れちゃう気がする……。

ふかわ 長濱さん、あなたは本当に書くべき人です! 要は、「裸の自分」で勝負して傷ついたとき、その「真実」はごまかしようがないから、きっと立ち直れないんじゃないか、ということを恐れているんですよね。だから、求められる「イメージ」になるべく寄り添おうとしていると……。それに24歳で気がつきましたか。万人ではないかもしれないけれど、その葛藤に激しく共鳴する人は多いんじゃないかな。

長濱 「イメージ」とはまた違う自分の一面も知って欲しいという思いも昔はあったのですが、今は、求めて下さる「イメージ」の私でいたい気持ちが強くて、「誤解されたくないと思うのは、もうやめよう」と思っています。

ふかわ 誤解されたくないと思うのは、もうやめよう……。長濱さん、私の新刊と同じタイトルでエッセイ集を出しませんか? あなたの方がよほど説得力あります。私の『ひとりで生きると決めたんだ』は単なる強がりで、中身が全然伴っていないと今、痛感しました。私は誤解されたくなくて、世間の私に対する誤解をときたくて、エッセイを22編も書いたわけだから。お恥ずかしい……。でも、今のお話は、すごく人間の本質に迫っていることだと思います。それに、目の前の出来事を自分なりの視点で見つめ、考え、自分なりの答えを出している。その感覚をお持ちならば、きっと、書くテーマには枯渇しないとも思います。本当に、すごい。大きな温泉を掘り当てた気分で、これでもう、旅館は大繁盛です(笑)。

長濱 ありがとうございます。すごく、嬉しい。日々を忙しくこなしていると、自分が抱いた「違和感」としっかり向き合えないままになっている気もしていて、そういう意味でもアイスランドに行って、自分をリセットじゃないけれど、真っ白にしてみたいな、って考えています。アイスランドのこと、また詳しく教えてください。

ふかわ はい、機会がありましたら、またゆっくりお話ししましょう。

長濱 ぜひよろしくお願いします!

【前編を読む】「薬味入れるって…」ひつまぶしの3通りの食べ方に異論 長濱ねるとふかわりょうが語る、ちょっとした違和感〈前編〉 

 ***

長濱ねる
1998年生まれ。長崎県出身。2015年にアイドルグループ「欅坂46」のメンバーとしてデビューする。グループ活動以外にも雑誌のモデルや長崎市観光大使を務めるなど、圧倒的な人気を誇った。2019年にグループを卒業した後は、タレントとしてTVやラジオなどで活躍、俳優としても多くの映像作品に出演し幅広い層からの支持を得ている。読書好きとしても知られ、雑誌「ダ・ヴィンチ」でエッセイを連載中。

ふかわりょう
1974年生まれ。神奈川県出身。慶應義塾大学在学中の94年にお笑い芸人としてデビュー。長髪に白いヘア・ターバンを装着し、「小心者克服講座」でブレイク。後の「あるあるネタ」の礎となる。現在はテレビMCやコメンテーターを務めるほか、ROCKETMANとして全国各地のクラブでDJをする傍ら、楽曲提供やアルバムを多数リリースするなど活動は多岐にわたっている。著書に『世の中と足並みがそろわない』など。

新潮社 波
2023年1月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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