どれを読んでも面白い! 出揃った今村翔吾の文庫3シリーズ

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  • 恋大蛇 羽州ぼろ鳶組 幕間
  • 風待ちの四傑 くらまし屋稼業
  • イクサガミ 天

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どれを読んでも面白い! 出揃った今村翔吾の文庫3シリーズ

[レビュアー] 縄田一男(文芸評論家)

 直木賞を受賞して益々意気盛んな今村翔吾の文庫オリジナル、もしくは書き下しの最新作が出揃った。

〈羽州ぼろ鳶組 幕間〉と銘打たれた『恋大蛇』(祥伝社文庫)は、外伝的要素を持ったシリーズ初の短篇集。源吾らと関わった火消たちのその後を描く。表題作は淀藩火消組頭取・“蟒蛇”野条弾馬とその想い人紗代の火事場でのやりとり――その呼吸がなんとも嬉しくなる。詳しく書けないのが口惜しい。源吾らの次の世代の火消たちの活躍を描き、火事場に残された五つの屍の謎を追うちょっとしたミステリー「三羽鳶」等三篇が収められている。

『風待ちの四傑』(ハルキ文庫)は〈くらまし屋稼業〉の第八弾。汚い仕事をしている大店の秘密を知ってしまった比奈を晦まして欲しいと頼まれた堤平九郎らお馴染みの面々が、彼女を守って甲州へ送り届ける決死の道中行を描いたシリーズ屈指の力作。追っ手は何しろ千両で雇えるだけ雇った裏稼業の者六十五名。平九郎は、本来、敵対する炙り屋・万木迅十郎と共闘する事になるが、何しろ敵が多すぎ、いずれも必殺技の持ち主。いかにして比奈を守り切るのか。平行して戦いを展開する誇り高きアイヌ、極寒のかくれ里「夢の国」で敵の襲来を待ち受ける榊惣一郎など、いったんページを開いたら興奮が止まらぬ世界が待っている。

 興奮が止まらぬと言えば、それは作者の新シリーズ第一弾『イクサガミ 天』も同様だ。こちらは明治十一年の物語。「武技ニ優レタル者(中略)金十万円ヲ得ル機会ヲ与フ」という奇妙な新聞広告によって、京都天龍寺に集められた老若男女およそ三百名。彼らは各自に配られた点数を奪い合い、東海道を辿って東京を目指せと言われる。この命令を下した者は謎の人物・槐。点数を奪い合うという事は、すなわち、相手を殺すという事。死の流派京八流の使い手・嵯峨愁二郎は少女・双葉や元伊賀同心の響陣と共に道中を進むが、奇怪なる強敵がズラリと揃って、あたかも〈風太郎忍法帖〉の如し。これからの展開が楽しみで仕方ない。

新潮社 週刊新潮
2023年2月9日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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