中国、北朝鮮、ロシアの脅威迫る、平和維持の鍵は「インド」との連携 高橋洋一が語った日本の安全保障

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日本の安全保障

「三正面作戦」が迫られる日本の安全保障

 日本の安全保障政策は、目下、あまり芳しくない状況にあると言わざるをえない。

 2022年7月の参院選挙後の人事(第二次岸田内閣)では、防衛大臣が岸信夫氏から浜田靖一氏に変わった。

 また、浜田新防衛大臣の指示で、島田和久大臣政策参与(前事務次官、兼防衛省顧問)は退職、省顧問としてのみ留任となった。省顧問というのは、どの省でも名ばかりの役職であり、何の役割も権限もない。

 ひとことでいえば、2022年夏の人事で、日本の安全保障は大きく後退してしまったのだ。この人事を中国が高く評価しているらしいことが、皮肉にも、日本の現状のまずさを物語っている。

 今、日本の安全保障には、何が求められているのか。

 米・プリンストン大学で国際政治(戦争論)を専攻し、内閣官房参与もつとめていた高橋洋一氏は著書『【図解】新・地政学入門』の中で、インドとの連携を主張している。以下、同書から一部抜粋して紹介する。

仮想敵国は中国一国ではなくなった

 日本は長年、「ロシアをあまり敵に回さないように注意しつつ、中国に対峙する」というスタンスでやってきた。

 ところが2022年2月、ウクライナ侵攻でロシアが正体を露わにして以降、仮想敵国は中国一国ではなく、ロシア、中国、北朝鮮の三正面作戦を考えなくてはいけなくなってしまった。

 ロシアとの関係でいうと、北方領土の返還は、もう当分は無理だろう。

 ただし、ウクライナとの戦争が長引くごとに疲弊しきったロシアが、やがてソ連のように体制崩壊するようなことになれば、むしろ大きなチャンスだ。

 ロシアは広大だ。今まさに体制が崩れようとしているときに、モスクワから見てはるか東方の小さな島々と海など、もうどうでもいい、手放してもいいとロシアが考えるかもしれない。

 だが、もちろん、ウクライナ情勢の行方次第では、ロシアが日本にも刃を向けてくることも考えられる。

「ふるさと納税」で“国防”を支援する

 中国の脅威については、今までは、資本主義・民主主義国家、社会主義・独裁主義国家という点で大きく違っていても、経済的なつながりが良好ならば、何とかうまく付き合っていけるという発想もあったかもしれない。

 しかし、それはもう幻想と思ったほうがいい。

 ただ、近年、とみに野心を露わにしている中国に対して、「一般の日本人は手をこまねいているしかないのか?」と思った人には、1つ、すすめたいことがある。

 中国が付け狙っている尖閣諸島は、「沖縄県石垣市」だ。歴代の石垣市長は、尖閣諸島に行政標識を立てることを日本政府に要望してきた。というのも、日本が施政権を行使し、実効支配している土地でないと、日米安保が適用されないからだ。

 無人島で、行政を担う公務員も配置されていなくとも、行政標識を立てれば、施政権をもって実効支配していることになる。

 台湾と目と鼻の先にある自治体の長は、やはり危機意識が違う。

 しかし、この石垣市からの要望は、中国を刺激したくない日本政府によって拒否されてきた。

 私たちは、政府の判断に直接的に関わることはできない。

 でも、尖閣諸島を擁する石垣市の活動を、経済的に支援することはできる。

 じつは、石垣市は「石垣市の宝『尖閣諸島』の資料収集および情報発信等事業の為の寄付」と明記して、ふるさと納税を募っているのだ。

 草の根的な調査活動や啓蒙活動の影響力は、意外と侮れない。

 たとえば、石垣島から西表島など離島に向かうフェリー乗り場のロビーには、尖閣諸島の歴史などの展示がある。住民税の一部を石垣市に納めれば、石垣市の税収が上がり、こうした尖閣諸島に関する事業にもっと費用を割けるようになるのだ。

 バカンスで石垣島を訪れた人たちの何割かでも、こうした事業に触れ、尖閣諸島への意識、関心が高まれば、それが民意の力となって政府中枢に届く日が近づくかもしれない。

 中国、ロシアに加えて、もちろん北朝鮮の脅威も忘れてはいけない。

 あなどれないのは、北朝鮮が非民主主義国であり、核保有国でもあるからだ。戦争確率が高くなる条件を兼ね備えてしまっている。

 実際、たびたび日本に向けて弾道ミサイルを発射するなど、北朝鮮は不穏な動きを見せつづけている。

日本自国の安全保障に求められること

 先の大戦から80年近くが経ち、少しずつでも世界が民主的平和を勝ち取りつつあればよかったのだが、とうてい、そういえるような状況ではない。長い目で見れば、たしかに20世紀は平和な時代といえる。しかし依然として、戦争の火種は尽きない。

 日本を取り巻く状況も、厳しさを増すばかりだ。

 肝心要の日米安保体制はしっかり保ちつつ、その他の国々とも連携して、揺るぎない安全保障を構築していかなくてはいけない。

 アメリカ以外で固く連携したい国を挙げるとしたら、筆頭はインドだ。

 インドは、中国とロシアが中心になっている「上海機構」の加盟国である。

 ロシアによるウクライナ侵攻を受けて、国際社会が次々とロシアへの経済制裁を開始、あるいは強化するなか、インドはいっさい制裁を行なっていない。ウクライナ東部・南部4州のロシアへの強制併合に反対する国連決議でも、インドは棄権した(その他の棄権国は中国、ブラジル、ガボン)。

 他方、インドはQUAD(日米豪印戦略対話)の一員でもある。

 かつて安倍晋三氏が、総理時代に「自由で開かれたインド太平洋」構想のもとで提唱したQUADは、事務レベル会合、外相会合、首脳会合と、定期的な対話を通じて発展してきた。

「自由で開かれたインド太平洋」という概念は、今まで国際政治に存在しなかった。

 安倍氏が世界で初めて唱えて以来、トランプ前大統領、バイデン大統領をはじめ、欧米の首脳たちがこぞって使い出したのだ。インドから太平洋までを1つと捉えるという、この視野の広い概念を国際社会に提示、普及させたのは、いうまでもなく、安倍氏最大の功績の1つである。

 さて、今も述べたように、インドの片足は中ロの上海機構にあり、片足は米中豪のQUADにある。要するに、インドは二股外交をしているのだ。

 ずるいと思った人は、インドの地理的条件を考えてみてほしい。

 完全なるアメリカの同盟国になろうにも、アメリカよりずっと近くに中国とロシアがある。アメリカの傘の下に収まるという選択肢もあるが、インドは、みずから核兵器を保有する道を選んだ。自前の安全保障、その結果としての二股外交なのである。

 同じく中国とアメリカの間で二股外交をしている韓国は、どうも股裂き状態になってしまっているが、インドは違う。二股外交がうまくいくかどうかは、国力の質・量によって変わるのだ。

 というわけで二股外交を続けているインドだが、当然、日本としては、インドを完全にこちら側に引き込みたい。インドが中ロの枠組みから外れてくれれば、中国包囲網が完成する。

しかしインドの難しいところは、イギリス植民地時代の記憶から、アングロサクソンに対する反感がくすぶっていることだ。場合によっては二股外交をやめて、完全に中ロの仲間になってしまう可能性も否めない。

 それこそ、日本のがんばりどころだろう。同じ非アングロサクソン国として、インドとアングロサクソン国の間をとりもつ外交努力を結実させることが、民主主義国の連携強化、そして何より日本自国の安全保障のために求められている。

高橋洋一
1955年東京都生まれ。都立小石川高校(現・都立小石川中等教育学校)を経て、東京大学理学部数学科・経済学部経済学科卒業。博士(政策研究)。1980年に大蔵省(現・財務省)入省。大蔵省理財局資金企画室長、プリンストン大学客員研究員、内閣府参事官(経済財政諮問会議特命室)、総務大臣補佐官、内閣参事官(総理補佐官補)等を歴任。小泉内閣・第一次安倍内閣ではブレーンとして活躍し、「霞が関埋蔵金」の公表や「ふるさと納税」「ねんきん定期便」など数々の政策提案・実現をしてきた。また、戦後の日本における経済の最重要問題といわれる、バブル崩壊後の「不良債権処理」の陣頭指揮をとり、不良債権償却の「大魔王」のあだ名を頂戴した。2008年退官。その後、菅政権では内閣官房参与もつとめ、現在、嘉悦大学経営経済学部教授、株式会社政策工房代表取締役会長。『【図解】ピケティ入門』『【図解】経済学入門』『【明解】会計学入門』『【図解】統計学超入門』『外交戦』『【明解】経済理論入門』『【明解】政治学入門』『99%の日本人がわかっていない新・国債の真実』(以上、あさ出版)、第17回山本七平賞を受賞した『さらば財務省!官僚すべてを敵にした男の告白』(講談社)など、ベスト・ロングセラー多数。

あさ出版
2022年12月15日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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