【話題の本】『じゃむパンの日』赤染晶子著

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■早世の芥川賞作家、初のエッセー集

著者は『乙女の密告』で芥川賞を受賞し、平成29年に急性肺炎のため42歳で死去した。そんな早世の作家が新聞や雑誌などに生前発表した文章を収める初のエッセー集。昨年12月に初版3000部で刊行されると口コミで評判が広がり、すでに6刷1万5000部に達している。

表題作では、出勤するたびに同じビルに入居する資格教室のスタッフや医院の看護師と間違えられる「わたし」の日常を通して、人間のアイデンティティーをさらりと問う。掌編小説のような味わいだ。ビルの男子トイレでペーパーの消費量が急増した騒動をめぐる話では、意外なオチで笑わせる。職場、病室、自動車教習所…。鋭い観察眼と奔放な想像力によって日常の風景が変形し、読者は思わぬところへ連れていかれる。しかも戦争帰りの祖父やニートの先駆けのような隣人ら、描かれる人物がそろいもそろって愛らしい。

出版元は『乙女の密告』の雑誌発表時の担当だった元新潮社の加藤木礼さんが設立した個人出版社。「とにかく面白く、テキストとして力がある」(加藤木さん)と同社が送り出す最初の一冊に選んだという。作家の再評価を促す、珠玉の言葉が詰まっている。(palmbooks・1980円)

海老沢類

産経新聞
2023年2月18日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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