<書評>『ヤラセと情熱 水曜スペシャル『川口浩探検隊』の真実』 プチ鹿島 著

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<書評>『ヤラセと情熱 水曜スペシャル『川口浩探検隊』の真実』 プチ鹿島 著

[レビュアー] ヤマザキマリ(マンガ家)

◆インディ・ジョーンズを目指し

 自分という人間を今のような有様(ありさま)にかたどった要因となるものは、いろいろ思いあたる。もともと変わり者で、かなり自由に育ってきたが、日々屋外での昆虫採集や、禁止区域と言われている場所への探索などに明け暮れている娘の姿に教育の失敗を危惧したのか、我が家ではテレビの視聴が制限され、見ていいものは倫理観を養う児童文学を扱ったアニメか動物番組のみ。しかし私が何より楽しみにしていたのは、一九七〇年代後半〜八〇年代に放送されたテレビ朝日「水曜スペシャル」の川口浩探検隊シリーズである。自慢ではないが、今もPCに六話ほどのエピソードが保存されている。この番組を見ていなかったら、今の私はなかったとすら断言できる。

 それにしても、ページを捲(めく)るごとに目から鱗(うろこ)の連続だった。まさか番組が「インディ・ジョーンズ」を目指していたとは知らなかったが、そういえば古代ローマ時代が舞台の『プリニウス』という私の歴史伝奇漫画で、インディ・ジョーンズを意識したエピソードを描いたにもかかわらず、しばらく経(た)って読み直してみたら、なぜか川口浩探検隊のようになっていたことの理由が見事に立証された。

 私は川口浩探検隊のヤラセ的胡散(うさん)臭さを面白がって見ているところがあった。学校で双頭の蛇ゴーグ(二つの頭を持つ伝説の大蛇)の存在を信じて熱心に番組の感想を語るクラスの少年たちを「バカだな」と心で嘲(あざ)笑っていた。しかし、全ては作り話なのだと勘ぐりながらも視聴を止(や)めることができなかったのは、大の大人が皆満身創痍(そうい)の覚悟で懸命にノンフィクションを装ったフィクションを作っている姿に励まされていたからだ。大人になっても、ばかばかしいことをやり続けてもいいのだという希望を感じたかったからだ。

 読み終えて、人々がまだテレビと寛大かつ健全な距離を取れていた過ぎ去りし時代に対し一抹の寂しさを感じもしたが、著者の川口浩探検隊に向けた冷めることのない情熱に、良質のエネルギーを蓄えることができた気分だった。

(双葉社・1980円)

1970年生まれ。時事芸人。『お笑い公文書2022 こんな日本に誰がした!』など。

◆もう1冊 

戸部田誠著『史上最大の木曜日 クイズっ子たちの青春記1980−1989』(双葉社)。人気クイズ番組の参加者らの証言で描く青春群像劇。

中日新聞 東京新聞
2023年2月26日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

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