85歳の寺山修司がアイドルグループをプロデュース

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TRY48

『TRY48』

著者
中森, 明夫, 1960-
出版社
新潮社
ISBN
9784103046332
価格
2,200円(税込)

書籍情報:openBD

85歳の寺山修司がアイドルグループをプロデュース

[レビュアー] 大森望(翻訳家・評論家)

 PR誌〈波〉2月号を見たら、表紙(寺山修司の写真)に手書き文字で“アイドルグループ「TRY48」をプロデュースします! 寺山修司”と刷ってあって大笑い。さすがに末尾には“代筆・中森明夫”と添えているが、史上初の趣向だろう。

 寺山修司は、1935年、青森県生まれ。早大在学中、中井英夫に歌人として見出され、67年、九條映子、東由多加、横尾忠則らと演劇実験室「天井棧敷」を結成。70年、力石徹の葬儀委員長を務める。71年、『書を捨てよ町へ出よう』で劇映画に進出。83年、47歳の若さで病没。

 ――と、これが我々の知る略歴だが、その寺山が85歳の今も健在で、アイドルグループのプロデュースに乗り出したとしたら? という空想の現代を本書は狂騒的に描き出す。TRY48とは、テラヤマ48を略したグループ名。寺山のテの字も知らないのに応募したアイドル志望の女子高生・深井百合子は寺山イズムの強烈な洗礼を受けることになる。

 案内役は、著者の分身とも言えるメガネのサブカル少女、サブコこと寒川光子。超絶的なサブカル知識を持つキュートな彼女が、アンディ・ウォーホル=寺山修司説を皮切りに、寺山の人生を機関銃トークでレクチャーし、YouTubeの動画群を次々に解説つき再生、「あしたのために」と題する自身のブログで、矢吹丈を特訓する丹下段平のごとく百合子を徹底的に鍛え上げる。

 著者のやりたい放題はそれにとどまらない。寺山修司になりきって、『デスノート』のLは伊賀の影丸だと論証し、キタサンブラック引退レースの観戦記を書き、伝説の市街劇を再演。半世紀の時を超えて二つの時代を接続する。アイドル史的に言うと、作中の現代は2020年代よりも(BiSが誕生した)2010年頃がふさわしいと思うのだが、この際それはどうでもいい。本書の主役は圧倒的に寺山であり、令和に襲いかかる昭和なのだから。

新潮社 週刊新潮
2023年3月23日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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