<書評>『ルポ 筋肉と脂肪 アスリートに訊きけ』平松洋子 著

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ルポ 筋肉と脂肪 アスリートに訊け

『ルポ 筋肉と脂肪 アスリートに訊け』

著者
平松 洋子 [著]
出版社
新潮社
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784103064756
発売日
2023/02/01
価格
2,310円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

<書評>『ルポ 筋肉と脂肪 アスリートに訊きけ』平松洋子 著

[レビュアー] 澤宮優(ノンフィクション作家)

◆競技に特化した食事法

 近年スポーツ大会で目を見張るのはアスリートの鍛え上げられた筋肉である。彼らの好成績に大きく寄与するのが競技に特化した食事法である。

 本書は大相撲、プロレス、陸上競技、サッカーなどの選手だけでなく、栄養関連の専門家に取材することで、彼らの見事な体がどう作られるか、筋肉の分析も含めて多角的に描いたルポルタージュである。

 筋肉の在り方は競技によって異なる。大相撲では、ある程度の脂肪があることで、衝撃のクッションの役目を果たす。彼らの身体の源はちゃんこである。野菜や肉を多彩に組み合わせ、栄養素が万全に含まれており最強の料理と呼ばれる所以(ゆえん)である。

 エンターテイメント要素のあるプロレスだと若干違う。彼らの主食もちゃんこだが、肉体の美しさも要求されるので、食べ方が変わる。均整の取れた肉体美を持つ新日本プロレスのスター棚橋弘至(ひろし)は、鶏肉の皮や脂肪を取り除き、緻密なカロリー計算をしながら食べる。その徹底ぶりは求道的ですらある。

 公認スポーツ栄養士の鈴木志保子はトップアスリートを支える栄養士だが、ある実業団の長距離選手は、長年重い貧血に悩まされていた。彼女の食事療法で改善され、今はチームを引っ張る主力ランナーに成長した。食事は特効薬ではないが、地道に体質を変え、選手の体に持続的な影響力を及ぼす。

 女子一万メートルの日本記録保持者の新谷(にいや)仁美の引退から復活劇までのプロセスは、女性アスリートのコンディション作りの大きな参考となる。

 筋肉と脂肪とは、人間の身体を形作るだけでなく、意識にも関わる不思議な存在だ。だから好不調の波を左右する。著者は述べる。

 《アスリートには、自分だけが知る身体の声がある》

 この声をどうコントロールするかが、自身や指導者の課題であり、技量の向上に繋(つな)がる秘訣(ひけつ)ともなる。本書はアスリートへの革新的な助言だけでなく、私たちの身体とは何かに答える身体構造論でもある。(新潮社・2310円)

1958年生まれ。作家、エッセイスト。著書『父のビスコ』など多数。

◆もう1冊

ジェフ・ベルコビッチ著『アスリートは歳を取るほど強くなる』(草思社文庫)。年長アスリートの訓練、回復法、食事を明らかに。船越隆子訳。

中日新聞 東京新聞
2023年3月26日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

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