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- 羆嵐
- 価格:693円(税込)
老練の猟師が語る羆の「女への執着」
その後、集落の人々は近くの村に暮らす「クマ撃ち」の老練な猟師に助けを求めた。猟師は最初の被害者となった島川の妻子の遺体を確認し、子供の体が食われていないことを指摘してこう言った。
「なぜ子供を食わぬのかわかるか。最初に女を食った羆は、その味になじんで女ばかり食う。男は殺しても食ったりするようなことはしないのだ」
猟師の言葉を裏付けるように、羆が侵入した集落の家々では女性が使用していた湯たんぽがかみ砕かれていたり、女性の枕や腰巻がずたずたに切り裂かれてもいた。
村落の者たちを戦慄させた羆は、その後山に潜んでいたところをこの老練な猟師に撃たれて絶命した。心臓部に一発命中しても死なず、茶色い毛を逆立ててゆっくりと立ち上がったところに二発目の弾が額に命中して、ようやく動かなくなった。
こうして、三毛別を襲った羆の恐怖に、終止符が打たれたのだった――。
***
三毛別羆事件をモデルにした『羆嵐』では、自然と共存する中で人々が慢心する様子についても描かれている。犠牲者が出る前に、民家の軒下に吊るされたトウモロコシを羆が二度にわたって食い荒らしたが、その家の者は警戒せず周囲に伝えることもしなかった。さらに、最初の犠牲者となった島川の妻子の通夜を行う際には、妻の体の大半が食われていたことから羆の食欲は満たされ、山中深くに去っただろうと思い人々は警戒を解いてもいた。
行楽日和が訪れ、気分も明るくなるこの頃だが、自然への畏怖を忘れずに春を堪能したいものだ。
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