【話題の本】『すべて真夜中の恋人たち』川上未映子著

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■孤独に寄り添う美しい光

全米批評家協会賞小説部門の最終候補に、日本作品として初めてノミネートされたのは記憶に新しい。英題は「All the Lovers in the Night」。惜しくも受賞こそ逃したが、米国で権威ある文学賞の一つの、翻訳部門ではなくて英語で書かれた作品とも争う小説部門の候補に入った事実は特筆に値する。平成26年刊の文庫は累計25万部に達している。

主人公はフリーで校閲の仕事をしている30代の独身女性。人付き合いが苦手で内気な彼女が、高校の物理教師を名乗る50代男性に恋心を抱いてから静かに変わっていく様子を描く。大きな物語からこぼれ落ちてしまう人々の小さな営みに光を当て、その豊かさを照らし出す。本作のそんなやさしいまなざしは、川上作品を貫く美質といえる。

「朝や昼間のおおきな光のなかをゆくときは今も世界のどこかにある真夜中を思い、そこを過ごす人たちのことを思った。ひとりきりの夜を、ひとりきりの真夜中を過ごす人たちのことを思った」。光があればどこかに影もある。人々の孤独に寄り添う言葉と美しい情景の数々…。海外で年々評価を高める作家のエッセンスを味わえる。(講談社文庫・748円)

海老沢類

産経新聞
2023年4月8日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

産経新聞社

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