世界のテーマパークのトップに君臨するディズニーランド
世界的エンターテイメント複合企業のウォルト・ディズニー・カンパニーは、2023年10月に創立100周年を迎える。世界中のディズニー関連施設で、100周年を祝うイベントが始まっている。
ディズニーの大きな魅力となっているのが、「夢の国」とも評されるテーマパークだ。世界のテーマパーク年間入場者数ランキングを発表しているテーマエンターテイメント協会(TEA)の最新レポートによると、TOP10のうち1位を含む8つをディズニーランドなどディズニー関連のテーマパークが占めている。
ディズニーランドの魅力といえば、ホーンテッドマンションなどストーリー性のあるアトラクションや、シンデレラ城のように映画をテーマにした建物など、現実を忘れさせる夢のような世界観だろう。
しかし、創業者のウォルト・ディズニーが作りたかったのは、「鉄道博物館」だった――そう明かすのは、ディズニーをテーマにした著作が多くある有馬哲夫・早稲田大学教授だ。地味な印象が拭えない「鉄道博物館」が、「夢の国」となっていくまでの道のりを振り返ってみよう。(全2回の1回目)
(以下は有馬哲夫著『ディズニーランドの秘密』〈新潮新書〉をもとに再構成したものです)
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本当にディズニーはアニメや映画のテーマパーク?
ディズニーランドはなんのテーマパークでしょうか。「もちろんディズニーのアニメーションや映画のテーマパークでしょ」という答えが返ってきそうです。
そうでしょうか。
たしかにディズニーランドのなかには、ディズニーのアニメーションや映画をテーマにしたアトラクションやライドがあります。でも、それらのほとんどはファンタジーランドとトゥーンタウンに集中しています。これらを足してみても、ディズニーランド全体の面積の4分の1ほどの広さしかありません。
たとえば、「メインストリートUSA」のなかの古い町並みや「ビッグサンダー・マウンテン」などは、ディズニーのアニメーション映画とも実写映画とも関係ありませんでした 。
トゥモローランドにあるものも、「スペース・マウンテン」や「スター・ツアーズ」など、ディズニーの映像作品とは関係が無いものが多いのです。実は、アトラクションの大部分は、ディズニーのアニメーションとも映画とも直接に関係が無いものだといえます。
ディズニーランドのテーマはディズニーの映像作品だけではありません。また、ウォルトがディズニーランドを作ろうと思った動機からすると、これらは必ずしも最初にくるものではありませんでした。
では、ディズニーランドはなんのテーマパークでしょうか。ウォルトはどんな動機でこのテーマパークを作ったのでしょうか。結論をいえば、それは交通博物館のようなものだったといえます。というのも、ディズニーランドには、アメリカの交通を担ったさまざまな乗り物があるからです。
アメリカの歴史を担った鉄道と蒸気船
鉄道系としては、パーク内をめぐるサンタフェ鉄道(のちにディズニーランド鉄道に改名)、フロンティアランドの「レインボウ・カヴァーンズ・マイン・トレイン」のトロッコ、ファンタジーランドの「ケイシージュニア・サーカストレイン」、トゥモローランドのモノレール。
船舶系としては、「帆船コロンビア号」、「蒸気船マークトウェイン号」、「トムソーヤ島」への渡し舟いかだ。
アメリカのものではないものでは、アドベンチャーランドの「ジャングルクルーズ」の船、ファンタジーランドにある「ストーリーブック・ランド」のゴンドラ、交通手段とはいえないにしても、トゥモローランドにはロケットと原子力潜水艦などもありました。
これらのすべてが、1955年にアメリカのカリフォルニア州アナハイムで開園した オリジナル・ディズニーランドのオープン当時にあったわけではありません。ウォルトが次々と加えていったものです。
しかし、その根底に、アメリカの歴史を担った交通手段、とくに鉄道と蒸気船を走らせるというコンセプトがあったことは疑いようがありません。
なかでも、オリジナル・ディズニーランド創造の物語の最初にくるものは鉄道です。そして、鉄道が文明の牽引車だったころの古きよきアメリカを再現し、その時代の精神を自分も振り返りたい、ゲストにも振り返ってもらいたい、というのがウォルトの動機でした。
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- ディズニーランドの秘密
- 価格:814円(税込)
ウォルト・ディズニーがオープニング・スピーチで語ったこと
ウォルトは、アナハイムでの オープニング・スピーチで、「年配の人たちは過去の優しい思い出をもう一度経験し……若者は未来へのチャレンジとそれが約束してくれるものを経験するでしょう 」といいました。未来への希望よりも過去の思い出の方がスピーチのなかで先に来ていることに注意する必要があります。ウォルトにとっては、過去の思い出のよりどころを作るということの方が先だったのです。
また、この「もう一度経験し」という部分は、英語では“relive”となっています。直訳すると「生き直す、もう一度生きる」ということです。つまり、「追体験する」とか「思い出す」とかいった情緒的な軽い意味ではありません。もっと重い、当時53歳だったウォルトのようなおじいさんになりかけの人間の切なる願いがこもっています。
テーマパークを考えたとき、彼の頭に最初に浮かんだのは、鉄道と駅に続くメインストリートでした。その次にくるのが、蒸気船を浮かべた川とその船着場に続く町です。事実、彼はオリジナル・ディズニーランドをアナハイムに作る前に、ディズニー・スタジオに隣接する土地に「ミッキーマウス・パーク」を作ることを計画しましたが、このパークでも(敷地が狭かったとはいえ)その面積のほとんどが鉄道と川に占められていたのです。
ウォルトがこのプレ・ディズニーランドからすでに、アメリカの昔の交通機関とそれを土台にして栄えた町並みを再現し、アメリカ人に古きよき時代のアメリカを思い出してもらうことを意図していたということは注目していいでしょう。
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大人になったウォルトの鉄道愛を示すエピソードも、本書では紹介されている。スタジオに勤める鉄道好きなアニメーターが、自宅の敷地に安く手に入れた中古の機関車を走らせていたのを心底うらやましがり、この機関車に乗せてもらった時には汽笛を何度も鳴らして子供のようにはしゃいでいたという。
これらの体験がきっかけとなり、自分も機関車を走らせることができるパークを作りたいという強い思いを実現させたのが、ディズニーランドだった。だからこそ、ディズニーランドの枠組みであり骨格となったのが、鉄道をはじめとした交通機関であったのだ。
それにしても、ウォルトはなぜこれほどまでに鉄道に思い入れがあったのか。次編では、アイルランド移民としてアメリカ中西部に移り住んだディズニー一家が味わった貧しさと流浪の日々、その心の拠りどころだった鉄道を紐解いていこう。
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