【産経の本】『沖縄県民斯ク戦ヘリ 大田實海軍中将一家の昭和史』田村洋三著

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■感涙の電文を残した提督

太平洋戦争末期の沖縄戦で、海軍地上部隊を率いた大田實(みのる)中将の生涯と家族の歩みを描いた感動のノンフィクションである。

昭和20年6月23日、日本軍の組織的戦闘は終了したが、その10日前、海軍根拠地隊約9000人を指揮した大田中将は自決をとげた。本書のタイトルにもなっている「沖縄県民斯ク戦ヘリ、県民ニ対シ後世特別ノ御高配ヲ賜ランコトヲ…」という電文はこの時に残されたものだ。

沖縄戦では日本陸海軍将兵だけでなく、県民たちも過酷な戦いを強いられた。そういった状況でも、ひたむきに行動した県民に感謝を忘れなかった大田中将の心情が、戦史に残る感涙の電文に表れている。

大田中将と家族についての証言者は100人を超え、その豊かな人間性が浮き彫りにされる。戦後の家族の様子まで追い、「大田一族は娘婿に至るまで、中将の慰霊第一なのに打たれる」と著者。

くしくも平成3年のペルシャ湾掃海派遣部隊の指揮官として海上自衛隊を率いた落合●(たおさ)氏は、大田中将の三男だ。周囲への感謝の気持ちを忘れず、気配り、奥ゆかしさといった人柄は父親譲りなのだろう。568ページの大著が新装版でよみがえった。

(光人社NF文庫・1430円)

※ ●=田へんに「俊」のつくり

産経新聞
2023年4月29日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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