<書評>『魂魄(こんぱく)の道』目取真俊(めどるま・しゅん) 著
[レビュアー] 井口時男(文芸評論家)
◆沖縄戦の記憶を追体験
沖縄戦の悲惨な記憶を描く短編が五編。苦痛とともに刻み込まれたなまなましい傷としての記憶だ。
少年少女まで駆り出されての防衛戦。だが、「友軍」による差別やスパイ扱いがあり、村人同士の不信もある。重傷の母親に頼まれて幼い子供を刺し殺した記憶。岩に寝かせた瀕死(ひんし)の中学生の肌におりる露をなめて生き延びた記憶。どれも読みながら胸が苦しくなる。
記憶は人間の肉体とともに滅びる。本書の五編の記憶の所有者もみんな高齢者だ。人は言葉という記号を媒体にして、かろうじて、他人の記憶を追体験する。「他人の身になってみる」というのは、想像力というものの最も人間的な機能である。本書が読者に求めるのはそういう意味での想像力だ。だが、他人の身になることの何という難しさ。
著者は人物たちにむき出しの沖縄方言で語らせた。傷口からじかに血のようにあふれ出る言葉だ。最後に、そのなかから一番短い言葉を一つだけ引いておく。
「忘れ(わっし)てぃやならんど。」
(影書房・1980円)
1960年生まれ。作家。『水滴』『魂込め(まぶいぐみ)』『沖縄「戦後」ゼロ年』。
◆もう1冊
『沖縄ノート』大江健三郎著(岩波新書)