寝る前にあえて多めに水を飲むワケは?「筋肉と脂肪」を徹底的にアスリートに聞いたら凄かった

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筋肉を鍛えたいすべての人へのヒントに

気温が上がり半袖を着るようになると、蓄えてきた脂肪が気になるこの頃……。加齢に伴い、筋肉が落ちてきたと感じる人も多いことだろう。

一般人はあくまで見た目や健康のために自身の筋肉と脂肪について考えるが、アスリートやその道のプロとなるとやっぱり違う。食にまつわる多数の著書がある平松洋子さんが、アスリートに「筋肉」と「脂肪」について徹底的にインタビューをしたら、私たちの常識とはかけ離れた筋肉と脂肪へのこだわりがみえてきた。

インタビューの相手は、新日本プロレスのスター選手、サッカー日本代表の料理人、東京五輪でメダルをもたらした栄養士らに加え、競技監督、医師、大学教授、さらにはスポーツサプリメントの開発者まで多岐にわたる。彼らが語ったこととは?

(以下は『ルポ 筋肉と脂肪』の一部をもとに再構成しました。身長や体重のデータは取材当時のもの)

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2019年にIWGPヘビー級王座を奪還した棚橋弘至選手(写真:Essei Hara)

プロレスラー棚橋選手はプロテインとアミノ酸で血中アミノ酸濃度を一定に

新日本プロレスのスター選手・棚橋弘至さんは、40代になった現在も体重101キロ、身長181センチ の筋骨隆々とした肉体を保っている。その秘訣を聞くと、

「基本の3食は大事です。朝、昼、夜食べるんですが、それだと食事の時間が空きすぎて血中アミノ酸濃度が下がってしまう。すると、身体は、脂肪ではなく筋肉を分解してエネルギーに変えようとしてカタボリック(異化)な状態になってしまう。

筋肉が分解される状態を作らせないためには、つねに2~3時間置きにプロテインとアミノ酸を摂取して、血中アミノ酸濃度が下がらないよう一定にしなければならないんです。その数値が高ければ、身体はアナボリック(同化)な状態になって、筋肉が合成されていく。

僕は、寝る前に少しプロテインと水分を多めに摂るんです。そうすると、3時間くらいすると尿意で起きるじゃないですか。深夜3時か4時、枕元の冷蔵庫に冷やしておいたプロテインを飲んでいます。

(一度に飲むプロテインの量は)200~300cc、たんぱく質30~40グラムです。そうすると、血中アミノ酸濃度が朝まで筋肉を分解させない。新日本プロレスに入門してから寮を出るまでずっと続けていました」

食べ飽きた赤身にささみ、サラダチキンを続けるためのモチベーションは?

大きな試合を控える時の食設計は、さらに徹底している。

「夜一食です。朝起きて午前7時、10時にプロテイン。昼にちゃんこを食べる時は少しだけ野菜と肉を食べることもありますが。午後3時、6時にプロテイン、9時に晩ご飯。夕方6時ごろ食べちゃうと、9時くらいに一食食べたくなってしまうので、夕食は遅めに設定します。肉は牛の赤身かささみ。料理する時間がない時はコンビニのサラダチキン。便利だしおいしいけれど、もう食べ飽きました」

そんな“鉄の意志”を保つために、ご褒美をモチベーションにしているという。


ご褒美も大事

「『大きい試合が終わったら、あれを食べるんだ』と思いながら“鉄の意志”をストレッチします。この間はパンケーキ食べ放題とか、 CoCo壱のカレーとか、引っ張って引っ張ってモチベーションにする。

結局レスラーは、セルフプロデュースがうまくないと生き残れないんですよ。技のキレをアピールするのか、肉体なのか、マイクアピールなのか。とくに僕みたいにあまり癖のないレスラーは、いかに生き残るか、大変だったんです。試合のスタイルもオーソドックスだし、人間的に破天荒な部分があるわけでもない。レスラーの中で一番の常識人がいかに個性を出していくか。僕はナルシストな部分があったので、それを隠さず出していった」

「今日も絞れている、コスチュームも決まっている、自分は完璧」と自身の見た目をパフォーマンスにつなげるのが、棚橋というプロレスラー なのだ。

「知らないのは気の毒」なほど違いが出るスポーツサプリメントの効果

筋肉にこだわるアスリートを支える人もいる。江崎グリコがスポーツサプリメント「パワープロダクション」を1999年に発売した際、同社の事業開発ユニットでプロテイン開発に注力していた藤戸正彦さんだ。

「グリコはお菓子のイメージが強い会社だと思います。でも、スポーツサプリメント扱うにあたっては、お菓子の会社が“プロ仕様のマニアックなスポーツサプリメントを出している”というコンセプトで展開しようと考えていました」

藤戸さんは、NESTA(全米エクササイズ&スポーツトレーナー協会)認定の資格を持つサプリメントの専門家でもある。学生時代はラグビーに打ち込み、現在もアスリートへのアドバイスをより的確に行うためにマラソンや自転車ロードレース大会に出場しているという。

「素人でも、大会に出場する時は、このタイミングでBCAA(分岐酸アミノ酸)を3本摂ると良い、10kmごとに1本飲むと効果的、などとわかってきます。

気合だけでスタートの準備をしている選手を見ると、申し訳ないけどかわいそう……みたいな気分になってきます。飲まないのは怠慢か、知らないのは気の毒、というくらい違いますから。たとえば、プロのマラソン選手やトライアスロンの選手にアドバイスする時、『スタート前から前半は、水分とエネルギーを補給する低浸透圧ドリンク、中盤以降は、乳酸が溜まってきたらクエン酸やBCAAを含む回復系ドリンクに変えてください』という風にアドバイスします。後半になると筋肉が疲労してくるので、筋肉の主原料であるBCAAを摂ってすばやい回復につなげるわけです 」

痩せているからこそ走れる、という思い込みへの警鐘も


2021年に1万メートル女子の日本記録を塗り替えた新谷仁美選手(写真:ナノ・アソシエーション)

三十代を迎えてもなお日本トップクラスの陸上競技選手として活躍し、1万メートル競走とハーフマラソンの日本記録保持者である新谷仁美選手は、こう警鐘を鳴らす。

「とくに陸上の長距離選手の指導者は、選手が太ることにすごく抵抗をもっています。痩せてこそ走れるという思い込みがあるから、太る原因を全部否定しがち。アスリートにとって栄養管理は重要な要素なのに、指導者によっては、栄養が行き渡ると太ると勘違いしたり、食欲をなくすことを歓迎する指導者までいます。私自身、“細い”とよくいわれ、だから“速い”となる。中高生の成長期に、身体が大きくなったり女性らしい体形になるのを抑えてまで結果を出させる風潮が、たしかにあります」

新谷選手は、料理が苦手で凝ったものをつくることはない。シンプルな味が好きだから、そのときどきで肉をゆでたり、容器にそのまま「ハーブといっしょにブロックごとぶちこんで、レンチンして塩胡椒」。試合の前には、いつも通りの量を6時間前に食べ終えておく。ゲン担ぎも一切なし。食べたいときは「自分の気持ちに素直になって、揚げものもOK」という。

「2013年のモスクワ大会のときはもっとも痩せていました。身長166センチで体重40キロあるかないか、体脂肪率3%。身体が軽いから30分くらい楽々走れるし、かかとにも負担が少ないという浅はかな考えでした。炭水化物を摂らず、一日に何度も半身浴をしたりしてダイエットを続けていたら、案の定、生理が止まって不調を招いた。

本当に早い外国人選手が食事を摂っていないような体形をしていますか。食べなければ筋肉はつかないし、筋力もスピードも出ない。食べ物は、栄養だけでなく、身体を強くしてくれます。走れるのは痩せた身体なんだというイメージに捕らわれているのは、日本人選手だけですよ」

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自身の肉体にとことん向き合ってきたアスリートだからこその、金言だろう。『ルポ 筋肉と脂肪』では、アスリートや彼らを支える関係者が食べている食事や身体への哲学を取材している。身体との向き合い方に悩んだ時に、手助けとなってくれそうだ。

Book Bang編集部
2023年5月18日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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