王道ホラー小説からミステリーへ 中国ベストセラー作家の初邦訳

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幽霊ホテルからの手紙 = GHOST HOTEL

『幽霊ホテルからの手紙 = GHOST HOTEL』

著者
蔡, 駿, 1978-舩山, 睦美
出版社
文藝春秋
ISBN
9784163916903
価格
2,145円(税込)

書籍情報:openBD

王道ホラー小説からミステリーへ 中国ベストセラー作家の初邦訳

[レビュアー] 香山二三郎(コラムニスト)

“中国のスティーヴン・キング”の異名をとるベストセラー作家の待望の本邦初訳長篇が出た。表題からもお分かりのように、中身はホラー。

 上海の若手警察官・葉蕭のもとに、ある雨の晩、幼馴染で新進作家の周旋が訪ねてくる。木匣を取り出した彼はそれとの出会いを語り始める。バスで知り合った血だらけの娘・田園からその匣を預かるが、しばらくして家を訪ねると彼女は亡くなっており、周旋の留守電にはあの匣を幽霊客桟(ホテル)に届けるようメッセージが残されていた。

 しかし場所までは残されていなかったので、それを葉蕭に調べてほしいというのだ。田園は伝統演劇の女優であることや心臓を患っていたこと、ホテルが浙江省の海辺にあることを葉蕭が突き止めるや、周旋は直ちに現地に旅立つ。だがやっとの思いでたどり着いた、荒れ果てた土地に建つ黒い館には怖ろしい秘密が……。

 というわけで第二部からは、通信手段の限られたホテルにいる周旋が葉蕭に送った手紙の内容が綴られていくことに。まず、福井県の東尋坊を思わせる険しい海岸線というロケーションがいい(しかも背後には墓地もあり!)。近隣の住人から忌避されている三階建ての幽霊ホテルも迷宮状の怪建築なのだが、何とすでに先客が複数いて、そのいずれもがワケありげ。宿の主人は三階には上がるなというし、海には何やら怪異が潜んでいるようだし、著者は次から次へとホテルものホラーの王道をゆくあの手この手をかましてくるのだ。

 そしてそのホラー沼に徐々にハマっていく周旋と葉蕭。著者は日本贔屓と見えて、森村誠一の長篇小説や立原道造の詩がモチーフに活かされているあたりも好印象というべきか。冒頭で本書をホラー扱いしたが、終盤にはミステリー的な趣向も用意されており、これで著者二〇代の作品というのだから恐れ入る。続篇もあるそうで、蔡駿、癖になりそう。

新潮社 週刊新潮
2023年6月1日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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