右派も左派も都合よく利用する「戦前」を正しく理解する 神話と国威発揚の関係に迫った『「戦前」の正体』が初登場[新書ベストセラー]

ニュース

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク

 5月23日トーハンの週間ベストセラーが発表され、新書第1位は『裁判官の爆笑お言葉集』が獲得した。
 第2位は『脳の闇』。第3位は『折れない心 人間関係に悩まない生き方』となった。

 4位以下で注目は9位に初登場の『「戦前」の正体 愛国と神話の日本近現代史』。近現代史研究者の辻田真佐憲さんによる「戦前」解説本。昨年末に放送されたテレビ朝日系の番組「徹子の部屋」でタレントのタモリさんが2023年について「新しい戦前になるんじゃないですか」と語ったことが話題になった。しかし私たちは「戦前」を正しく理解しているのだろうか。辻田さんは同書の「はじめに」で昨年亡くなった安倍元首相が唱えた「日本を取り戻す」や「美しい国」などの「戦前回帰的」とも捉えられるスローガンを引き合いにだし、《だが、本当にそうだっただろうか。靖国神社に参拝しながら、東京五輪、大阪万博を招聘し、「三丁目の夕日」を理想として語る──。そこで取り戻すべきだとされた「美しい国」とは、戦前そのものではなく、都合のよさそうな部分を適当に寄せ集めた、戦前・戦後の奇妙なキメラではなかったか。》と疑問を呈する。一方でそれを批判する左派が語る「戦前」も《日本の暗黒部分をことさらにかき集めて煮詰めたものだった》と述べる。どちらも虚像をもとに議論をしているため、不毛な争いに終始していると喝破し、《右派にも左派にも媚びず、戦前をしっかり知らなければならない》と述べる。そこで辻田さんが注目したのは「日本神話」だ。戦前の大日本帝国は国民を結びつけるための物語として日本神話を利用していたと述べ、神話が国威発揚に利用されてきた経緯を紐解いていく。八紘一宇や万世一系、大日本帝国憲法や教育勅語、戦前を語る上で不可欠なキーワードは全て神話に紐付いており、神話を知ることは「戦前」を正しく理解する一助となるだろう。議論の前提となる教養を得られる一冊だ。

1位『裁判官の爆笑お言葉集』長嶺超輝[著](幻冬舎)

「死刑はやむを得ないが、私としては、君には出来るだけ長く生きてもらいたい」(死刑判決言い渡しの後で)。裁判官は無味乾燥な判決文を読み上げるだけ、と思っていたら大間違い。ダジャレあり、ツッコミあり、説教あり。スピーディーに一件でも多く判決を出すことが評価される世界で、六法全書を脇におき、出世も顧みず語り始める裁判官がいる。本書は法廷での個性あふれる肉声を集めた本邦初の語録集。これを読めば裁判員になるのも待ち遠しい。(幻冬舎ウェブサイトより)

2位『脳の闇』中野信子[著](新潮社)

ブレない人、正しい人と言われたい、他人に認められたい……集団の中で、人は常に承認欲求と無縁ではいられない。ともすれば無意識の情動に流され、あいまいで不安な状態を嫌う脳の仕組みは、深淵にして実にやっかいなのだ――自身の人生と脳科学の知見を通して、現代社会の病理と私たち人間の脳に備わる深い闇を鮮やかに解き明かす。五年にわたる思索のエッセンスを一冊に凝縮した、衝撃の人間論!(新潮社ウェブサイトより)

3位『折れない心 人間関係に悩まない生き方』橋下徹[著](PHP研究所)

「みんな仲良く」という呪縛から逃れよ、「自分の軸」を持てば消耗しない……橋下徹が対人関係に悩む現代人に、その要諦を説く!(PHP研究所ウェブサイトより)

4位『成熟スイッチ』林真理子[著](講談社)

5位『日本史を暴く 戦国の怪物から幕末の闇まで』磯田道史[著](中央公論新社)

6位『20歳の自分に教えたい地政学のきほん』池上彰[著]「池上彰のニュースそうだったのか!!」スタッフ[著](SBクリエイティブ)

7位『80歳の壁』和田秀樹[著](幻冬舎)

8位『第三次世界大戦 日本はこうなる』池上彰[著]「池上彰のニュースそうだったのか!!」スタッフ[著](SBクリエイティブ)

9位『「戦前」の正体 愛国と神話の日本近現代史』辻田真佐憲[著](講談社)

10位『60歳のトリセツ』黒川伊保子[著](扶桑社)

〈新書ランキング 5月23日トーハン調べ〉

Book Bang編集部
2023年5月27日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク