<書評>『川端康成 孤独を駆ける』十重田裕一(とえだ・ひろかず)著
[レビュアー] 重里徹也(聖徳大特任教授・文芸評論家)
◆時代でたどる作家の歩み
メディアの状況が激しく動いていく中で、川端康成はどのように作家としての歩みを積み重ねていったのか。幅広い視野から生涯をたどり、その仕事の意味を時代のあり様とともに考えることができる一冊だ。筆致は簡潔でわかりやすく、とてもなじみやすい。
早い時期に新感覚派の友人たちと映画製作に乗り出したこと。『浅草紅団』の新聞連載に際してニュース記事がどのように使われたのか。挿絵と小説はどう関係しているか。戦前の内務省、戦後の連合国軍総司令部(GHQ)などによる検閲にどう対処したのか。戦後の高度経済成長とパラレルに、作品の映画化やテレビドラマ化が作品をメジャーにしていった過程とは。鉄道の発達と川端文学の関係。興味深い話題を追ううちに、一人の文学者の軌跡が徐々に浮かび上がってくる。
評伝の合間にはさまれたコラムも多彩で楽しい。後進支援の舞台裏、美術品の収集と死者との対話、『伊豆の踊子』とツーリズム、川端康成と松本清張など、興味深い読み物になっている。
(岩波新書・1166円)
1964年生まれ。早稲田大文学学術院教授・国際文学館館長。
◆もう1冊
『川端康成の話をしようじゃないか』(田畑書店)。小川洋子と佐伯一麦の対談。