映画「プラダを着た悪魔」の原作本で主人公がアナ・ウィンターに吐いた捨て台詞とは?

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ファッション誌編集部員が粉骨砕身「華やかで痛快で目が回る」成長譚

[レビュアー] 吉川美代子(アナウンサー・京都産業大学客員教授)

 ファッション好きなら絶対に観たはずの映画『プラダを着た悪魔』。原作は’03年アメリカでベストセラーになった。著者は20代の女性。大学卒業後に一流ファッション誌「ヴォーグ」米国版の編集長でファッション界の女帝アナ・ウィンター女史(敬称をつけたくなる大物)のアシスタントに。9カ月後に辞めて、この小説で作家デビュー。そのため、主人公をこき使う悪魔のごとき編集長のモデルは女史か、と話題になった。

 原作のファッション誌は「ランウェイ」。田舎育ちで大学を出たてのアンドレアは編集長ミランダの第二アシスタントとして採用される。ミランダを神のごとく崇める編集部の面々は、彼女からの無理難題に、モデルのような華奢な体に高級ブランドの服と10センチのピンヒールで東奔西走。カジュアルブランドの服で浮いていたアンドレアも入社3カ月目、ついに職場に相応しい格好、つまり編集部員に次々と支給される高級ブランドを着ることを決意し、初めて選んだのが上から下までプラダ(映画は違う)。でも彼女もミランダも様々なブランドを着るので、タイトルの「プラダ」はファッション業界を象徴する記号と考えればいい。

 唖然とするほどのミランダの人使いの荒さ(パワハラとは違う)は原作も映画も同じだが、静かに彼女のもとを去る映画のアンドレアと違い、原作は「あんたなんて、くたばっちまえ」と捨てゼリフ。クビになっても、手元の高級ブランドを古着屋に売って大儲けと逞しい。ミスをカバーしてくれる先輩アシスタントのエミリーとは協力関係にあるが、映画ではアンドレアに辛辣。でも憎めないところもあり、演じたエミリー・ブラントが強烈な印象を残す。原作のミランダは細くて小柄。そしてシャネルの赤いドレス姿は、息を呑むほど美しい芸術品という描写がある。一方、ミランダ役のメリル・ストリープは中年体型ながら、あらゆるブランドをさらりと着こなして、さすが大女優。原作と違い、ラストでアンドレアを評価していたことが分かり、後味もよい。

 よくある若い女性の成長物語が素敵なファッションと合体、楽しさが倍増した。

新潮社 週刊新潮
2023年6月8日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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