『こころを旅する数学 直観と好奇心がひらく秘密の世界 (原題)MATHEMATICA』ダヴィッド・ベシス著(晶文社)

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こころを旅する数学

『こころを旅する数学』

著者
ダヴィッド・ベシス [著]/野村真依子 [訳]
出版社
晶文社
ジャンル
哲学・宗教・心理学/哲学
ISBN
9784794973580
発売日
2023/03/24
価格
2,640円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

『こころを旅する数学 直観と好奇心がひらく秘密の世界 (原題)MATHEMATICA』ダヴィッド・ベシス著(晶文社)

[レビュアー] 西成活裕(数理物理学者・東京大教授)

直観・想像力 鍛える大切さ

 いま子供から大人まで、数学をちゃんと勉強したい、あるいはもう一度勉強し直したい、という人が増えているように感じる。それはここ数年、AIやデータ解析が大きな話題となっていることが影響しているせいかもしれない。また、数学が出来る人は年収が高いという調査結果もあり、これを聞くと勉強するモチベーションがさらに高まる人もいるだろう。ただ、数学が出来る人は普通の人とは違って特別な才能がある、と思っている人も多いのではないだろうか。本書を読むと、それが間違った思い込みであることがよく分かる。これまで本当の数学の考え方を教わっていなかっただけかもしれないのだ。

 本書はデカルトを始め偉大な数学者たちに学ぶ思考法を見事にまとめたものであり、それは数学だけでなくビジネスや経営など万事に通じるものである。これまで類書では全く語られてこなかった思考法の「秘密」が書かれているといっても過言ではない。

 せっかくなので、一つだけ数学力を鍛える面白いトレーニング方法を紹介しよう。それは、家にある家具の配置をまず覚え、その後に目を閉じたまま家の中を歩き回る、というものだ。誰でもできる遊びだが、これが本書を読めばいかに素晴らしい方法かが分かる。このように想像力を鍛える自由な遊びは、明日のテストにはおそらく役に立たないが、長い目で見れば効果的かもしれないのだ。

 本書の核心は、論理的に考える以上に直観が大切だと述べている点である。数学者も様々な予想を立てるが、これは理由を説明できないまま「正しい」と感じとったからであり、まさに直観的行為なのだ。ただ直観とは何か、その得体の知れないものをどう鍛えればよいのだろうか。本書は斬新な議論で、論理と直観の関係を明らかにし、その上で直観の鍛え方を具体的に示しており、その核心に触れると感動すら覚えてくる。教える立場、勉強する立場の両方に参考になる、珠玉の言葉が満載のお勧めの一冊だ。野村真依子訳。

読売新聞
2023年6月2日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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