『WOKE CAPITALISM : 「意識高い系」資本主義が民主主義を滅ぼす』
- 著者
- Rhodes, Carl, 1967- /庭田, よう子
- 出版社
- 東洋経済新報社
- ISBN
- 9784492444740
- 価格
- 2,640円(税込)
書籍情報:openBD
<書評>『WOKE CAPITALISM 「意識高い系」資本主義が民主主義を滅ぼす』カール・ローズ 著
◆企業「社会貢献」の深層
近年、世界的に社会貢献を打ち出す企業が増えてきた。株主の利益だけを追求するのではなく、地球環境や格差縮小に貢献することを前面に掲げ、直接利益にならない「社会正義」を実践する企業が増えてきているのだ。本書ではそれをウォーク資本主義と名付けている。私はそれを「偽善」だと思っていた。温室効果ガス削減を叫ぶ企業のトップが下駄(げた)代わりにプライベートジェットを乗り回していたり、格差是正を訴える企業が、途上国の労働者に低賃金・長時間労働を強いる低単価発注を繰り返しているからだ。
ただ、同時に私は偽善でもいいじゃないかと考えていた。偽善とはいえ、人と地球を守る活動にいそしむことは、利益の追求だけを考えている企業よりも、ずっとましだと思っていたのだ。本書の主張は、私のそうした理解を根底から覆した。
マルクスは、「資本は増殖し続ける価値だ」と言った。カネを増やすことだけを考える経済主体が資本家であり、株主なのだ。企業は、株主のことだけを考えて行動するのが、本来の資本主義の姿だ。しかし、資本の論理を貫いていくと、やがて地球が壊れ、許容範囲を超える格差が発生する。そうなれば、企業に対する消費者や労働者の反乱が避けられなくなる。そこで登場したのがウォーク資本主義だ。
資本家にとってウォーク資本主義には二つのメリットがある。一つは消費者の信頼を獲得することだ。事業を金儲(もう)けでやっているのではなく、社会正義実現のためにやっているのだと思わせてしまえば、消費者はその企業の商品を購入する。また、その企業で働く労働者を「社会貢献だ」と言って、低賃金で働かせることもできる。つまり、企業が社会貢献活動をアピールするのは、人や地球のことを考えているのではなく、安定してカネを稼ぎ続けるための手段なのだ。本書に登場する事例は、海外のものだが、日本企業、あるいは日本政府がやっていることも、本質的に同じだと思う。
(中野剛志解説、庭田よう子訳、東洋経済新報社・2640円)
シドニー工科大学組織論教授。主流派や独立系の新聞に定期的に寄稿。
◆もう1冊
『ブルシット・ジョブの謎』酒井隆史著(講談社現代新書)