<書評>『夜の銀座史 明治・大正・昭和を生きた女給たち』小関(おぜき)孝子 著

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夜の銀座史

『夜の銀座史』

著者
小関 孝子 [著]
出版社
ミネルヴァ書房
ジャンル
社会科学/社会
ISBN
9784623095605
発売日
2023/04/11
価格
2,640円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

<書評>『夜の銀座史 明治・大正・昭和を生きた女給たち』小関(おぜき)孝子 著

[レビュアー] 小倉孝誠(慶応大教授)

◆働く側の声掬(すく)い実態描く

 夜の銀座と言えば、華やかで享楽的なイメージが思い浮かぶだろう。小説やテレビドラマの舞台になることも多い。ではその銀座はどのように発展し、女性たちはどのように生きてきたのか。本書は銀座とそこで働く人々の実態に、歴史的に迫る。

 明治末期、銀座にいくつかの「カフェー」が作られ、「女給仕」という職業が生まれる。当時のカフェーは記者、作家、画家などが集うサロンで、女給たちは淡々と働くだけだった。一九二三(大正十二)年の関東大震災が、その風景を一変させる。百貨店の進出により「昼の顔」が強化され、飲食業界は夜の営業で栄えるという二極化が進んだのである。カフェーは美人の女給たちを並べて、男性客を引き寄せた。

 二六年の「職業婦人調査 女給」は、女給の実態と意識について貴重な証言をもたらしてくれる。年齢は十七〜二十三歳が中心で、じつに若い。客のチップがあったとはいえ、収入は低所得とされる月収六十円以下が大半だった。銀座の女給は派手で、ぜいたく好きと見られていたが、実際は貧困、親の死などでやむなくこの道を選んだ女性が多い。セーフティーネットとして機能していたのだ。またいずれ自立し、みずから事業を興そうと考える者もいた。

 たしかに彼女たちは商品化され、客の性的関心の対象にもなってきた。カフェーがバーやキャバレーへと変貌していくにつれて、その傾向は強まる。銀座の一部が高級化路線に向かったのに対し、大阪が大衆化を進めたという対照も興味深い。戦時中、銀座のネオン街はほとんど消滅し、戦後は小規模バーとして復活すると、「マダム」の時代が始まる。銀座の女性たちは常にたくましく生きてきたことが分かる。

 繁華街の歴史は客である男性によって、男性の視点から書かれることが多かった。それに対して本書は、女性の社会学者が、もう一方の当事者たる女性たちの声を掬(すく)いとった点が特徴である。夜の銀座にまつわる紋切り型のイメージを、快く打ち破ってくれる。

ミネルヴァ書房・2640円

跡見学園女子大講師・社会史、ジェンダー史。

◆もう1冊

『銀座カフェー興亡史』野口孝一著(平凡社)

中日新聞 東京新聞
2023年6月4日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

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