「顔の見た目が若い人は、体も若い」って本当…? 同窓会で“自分だけ老けてる”と感じたら気をつけて

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■老化研究の最新トピック! “老腸相関”

 腸内細菌に関する調査によると「酪酸」という成分と、酪酸を作り出す「酪酸産生菌」という腸内細菌が老化防止に重要な役割を持つことがわかりました。酪酸は、肥満を防いだり、炎症を抑えたりと、老化の防止にも効果があり、体に良いはたらきをしてくれる短鎖脂肪酸のうちの1つです。酪酸は酪酸産生菌だけが作り出すことができます。

 酪酸は大腸のエネルギー源であり、悪用菌の発生を抑制してくれます。また、酪酸が大腸の代謝を活発にさせることで、腸内の酸素が消費されます。その結果、酸素を嫌うビフィズス菌やほかの有用菌がすみやすい環境にもしてくれるのです。免疫力が高まり、炎症を抑制する効果も得られます。

 酪酸産生菌が増えると、酪酸によって免疫細胞が増え、老化の原因となる炎症を防いでくれます。また、脳細胞の老化を抑制するという報告もあります。

■酪酸産生菌は筋肉量の低下も防ぐ

 さらに研究を進めていくと、健康な高齢者はサルコペニアが少ないという特徴があることもわかりました。腸内の酪酸産生菌が多いほど骨格筋量が多い傾向が見られたため、酪酸産生菌はサルコペニアも防ぐのではないかと考えられます。

 京丹後市の長寿者の食事は、肉をあまり食べず、豆類など植物性たんぱく質や食物繊維の多い野菜中心です。最近ではアスリートも、同じように魚や豆類からたんぱく質をとり、食物繊維を積極的にとるようになってきています。つまり、肉をたくさん食べなくても、良質な筋肉は作ることができるということです。

 体に良い腸内細菌のエサとなる食物繊維を積極的に摂取すれば、酪酸産生菌が育ちます。今後、腸内での酪酸産生菌の育成が、老化防止のキーワードになるのではないでしょうか。

■酪酸産生菌を増やすには、水溶性食物繊維を

 腸内環境を良くして腸の老化を遅らせるためには、腸内に酪酸を作ってくれる酪酸産生菌を増やすことが有効です。そのためには、酪酸産生菌のエサになるものをたくさん食べましょう。

 酪酸産生菌が好むものは、食物繊維。中でも水に溶けやすい水溶性食物繊維が好物です。「腸内細菌のエサになる」とは、実際に腸内細菌が食べるのではなく、腸内細菌が、エサとなるものを分解して別の物質を作り出す(=代謝する)こと。このプロセスが「発酵」です。

 発酵を活性化するには、有用菌のエサとなる食物繊維を積極的に摂取すること、逆に悪玉菌が好む高脂肪・高たんぱくな食事や、糖分・塩分を控えることが必要です。こうした方法はすぐに結果が出ないと思われるかもしれませんが、腸内では24時間365日発酵が行われています。やみくもに筋トレやダイエットで体質改善にチャレンジするよりも、まずは食べ方を変えて腸内環境を生まれ変わらせるほうが、ずっと簡単で効果を実感しやすいのではないでしょうか。

■古代人のほうが多様な腸内フローラを持っていた!

 最新の遺伝子解析によって、実は1000~2000年前に生きていた古代人のほうが多様な腸内フローラを持っていたとわかったのです。データを比較すると、古代人の腸内は、工業の発展していない地域の人々の腸内フローラと近しいこともわかりました。日本人を例に考えると、古くから農耕民族で、食事は野菜中心、江戸時代には主食はお米、おかずは食物繊維の豊富な野菜、イモ類、キノコ類、豆類、海藻類が中心の一汁三菜が確立され、高脂肪の肉よりも魚介類から動物性たんぱく質を摂取してきました。昔は砂糖も貴重品でしたから、おやつといえば果物やイモ類でした。つまり、悪用菌のエサとなる肉や砂糖が少なく、有用菌のエサとなる食物繊維が多いのが伝統的な食事だったのです。

■代々受け継がれてきた腸内細菌が消滅!? 「伝統的な日本食」が良い腸のカギ

 腸内フローラを諸外国と比較すると、日本人は有用菌であるビフィズス菌が圧倒的に多いことがわかりました。これは、ヘルシーな日本食によって培われ、先祖代々受け継がれてきた腸内細菌のおかげです。

 しかし、ここ数十年で食の欧米化が急激に進み、高脂肪・高カロリーの肉やファストフードが日常的に食べられるようになりました。日本人にあまり見られなかった潰瘍性大腸炎やクローン病、大腸がんなどの疾患が、1980年頃を境に急増しています。また、メタボリックシンドロームやアトピー性皮膚炎、糖尿病やうつ病の患者も増加しており、その一因は、腸内フローラの乱れにありました。日本人が受け継いできた腸内細菌のいくつかが消滅したという報告もあり、腸内フローラの多様性が損なわれつつあります。


世代が進むごとに家系で培われた腸内細菌が失われている

 食生活だけではありません。さまざまな抗菌物質や抗菌薬、農薬などによっても腸内細菌は失われてしまいます。先祖からもらった菌のおかげで保っていた免疫力を、次の世代に引き継げなくなるかもしれません。

 菌が少しでも残っていれば、そのエサとなる食物繊維を摂取することで、少しずつ数が戻る可能性もあります。昔の食事を見習って、高脂肪食を減らし、食物繊維をたくさん取り入れる食事に変えていきましょう。

内藤裕二(ナイトウユウジ)
京都府立医科大学大学院医学研究科 生体免疫栄養学講座教授。1983年京都府立医科大学卒業。米国ルイジアナ州立大学医学部分子細胞生理学教室客員教授、京都府立医科大学大学院医学研究科消化器内科学准教授、同大学附属病院内視鏡・超音波診療部部長などを経て、2021年より現職。日本消化器免疫学会理事、日本抗加齢医学会理事、2025年大阪・関西万博大阪パビリオンアドバイザー。酪酸産生菌と健康長寿の関係などの研究をはじめ、長年腸内細菌を研究し続けている本領域の第一人者。著書に『消化管(おなか)は泣いています 腸内フローラが体を変える、脳を活かす』(ダイヤモンド社)、共著に『腸すごい! 医学部教授が教える最高の強化法大全』(文響社)などがある。

内藤裕二(京都府立医科大学大学院医学研究科教授)/イメージ画像:Shutterstock/イラスト:大崎メグミ

Fun-Life!
2023年12月5日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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