-
- 早朝始発の殺風景
- 価格:748円(税込)
“青春は気まずさでできた密室だ”。早朝の電車内、観覧車のゴンドラ、同級生の部屋……。不器用な高校生たちの関係が、小さな謎と会話を通じて少しずつ変化していく。
驚異の三冠を達成した『地雷グリコ』の著者・青崎有吾が放つ、5つの青春密室ミステリー『早朝始発の殺風景』より、表題作の冒頭部分を公開します。
***
早朝始発の殺風景
プラットホームには朝が満ちていた。
朝の雰囲気とはしたたかなもので、その柔らかな光に照らされれば、どんなに退屈な景色でも静謐で平穏で爽快に様変わりしてしまう。ここ横槍線・鶉谷(うずらだに)駅も例外ではなく、薄汚れた椅子から錆びた自販機、防犯カメラのぶらさがった柱から雨漏りのひどいトタン屋根に至るまで、すべてが朝に呑み込まれていた。
まだ暖まっていない空気は五月中旬の割に肌寒く、ホーム上に人影はない。昇ったばかりの太陽が急角度で射し込み、点字ブロックをきらきら輝かせている。雀の鳴き声とどこかを走る車の音が、遠くからかすかに聞こえてくる。カメラを回したくなるような美しい早朝だった。ラジオ体操の歌に出てくるような希望の朝だった。
しかしそんなことよりも、僕は眠くてしかたがないのだった。
ホームの端に設けられた階段を下り、スクールバッグを揺らしながら歩いていく。ちょうどいい位置まで来て一番線側に並んだ。現在、午前五時三十分。始発が来るまではあと五分。ときおりあくびを漏らしつつ、短い時間をやり過ごす。
ピロリンピロリン。ピロリンピロリン。まもなくう、一番線にい、各駅停車あ、啄木町行きがあ、まいります。
自動アナウンスが静寂を破り、くすんだ水色の八両編成が、一号車を先頭にして滑り込んできた。僕の前には七号車が停まった。
五時三十五分発、下りの始発電車。
開いたドアから電車に乗る。
横槍線は郊外にある私鉄なのでそれほど繁盛しているわけじゃなく、いつも席はガラガラだ。始発とくればなおさらのこと、どこでも座り放題だな。そんなことを考えながら七号車を見回すと、確かに席はガラガラだったのだけど。
予想に反してひとりだけ乗客がいた。
女の子だ。
右側に分けた黒いロングヘア。バッグを傍らに置き、スマホもいじらず本も読まず、膝に手を載せてじっと座っている。服装は僕と同じ高校の地味なブレザー。彼女も僕に気づいて、目が合った。
クラスメイトだった。
普段あまり話さないほうの。
「…………」
退路を断つように、背後でドアが閉じきった。
僕は困惑していた。電車の中で微妙な知り合いに出会ってしまったときほど気まずい瞬間はない。しかも始発の車内で二人きりとか。無視するか? でも目、合っちゃったし。かといって話しかけるのも、
「加藤木くん」
名前を呼ばれた。
「……おはよう。殺風景」
僕も彼女の名前を返した。殺風景というのが彼女の苗字だ。珍しいので覚えていた。下の名前は知らない。たぶん彼女も僕の下の名前は知らない。その程度の関係である。
「早いのね」
「そっちこそ」
「…………」
「…………」
「座れば?」
「あ、うん」
僕はちょっと迷ってから、彼女の左隣の、二人分ほど離れた場所に座った。
株式会社集英社のご案内
関連ニュース
-
大ヒット上映中の「SPY×FAMILY」映画ノベライズが1位を獲得 映像化発表の【推しの子】スピンオフ小説もランクイン[ノベルスベストセラー]
[ニュース](日本の小説・詩集)
2024/01/27 -
東京卍リベンジャーズが池袋をジャック 原画展はチケット完売の大盛況[コミックスベストセラー]
[ニュース](コミック)
2022/02/12 -
「武将が脇役。戦争のリアルを描きたかった」直木賞受賞の『塞王の楯』は異色の歴史小説[文芸書ベストセラー]
[ニュース](日本の小説・詩集/歴史・時代小説/ミステリー・サスペンス・ハードボイルド)
2022/01/29 -
「読んでいるだけで浄化されて優しくなれる」年に一度のお楽しみ! 新年恒例の「ハクメイとミコチ」最新13巻が「呪術廻戦」30巻を抑えて初登場1位[コミックスベストセラー]
[ニュース](コミック)
2025/01/25 -
漫画版「アルスラーン戦記」第6回ブクログ大賞を受賞 荒川先生のコメントも[コミックスベストセラー]
[ニュース](コミック)
2018/11/17




























