2021年に発売されて以来、ほとんど宣伝をしていないにもかかわらず、じわじわと読まれ続け、この11月に増刷となるジョージア(旧ソ連のグルジア)の絵本があります。『シマをなくしたシマウマとうさん』(ソポ・キルタゼ/作、前田君江・前田弘毅/訳、ゆぎ書房)です。
出版当初、新型コロナウイルスの影響で大ピンチに陥ったこの絵本を救ったのは、SNSで有名な“バズる大使”でした。
この絵本をジョージアで見つけ出し、ジョージア研究者である夫と共訳した、ゆぎ書房・代表の前田君江さんに話を伺い、作品の不思議な魅力に迫りました。
(※以下では、作品のストーリーを詳しく紹介しています。ご注意ください)
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- シマをなくしたシマウマとうさん
- 価格:2,200円(税込)
■シマが消えていく謎の病にかかったシマウマとうさんが、ジタバタ
――『シマをなくしたシマウマとうさん』はどんなお話なのでしょうか?
お話の中心には、とうさん、かあさん、ぼうやの3人(3匹)で暮らすシマウマ一家が描かれます。ある日、主人公の「シマウマとうさん」は、自分のシマの数が減っていることに気付きます。最初は気のせいかとも思いましたが、シマはどんどん減っていってしまいます。
お医者さんに行くと珍しい病気だと言われ、ビタミン剤と免疫を強くするシロップを処方されますが、一向に良くなりません。シマウマかあさんも心配してくれるし、ぼうやもパソコンで病気について調べてくれました。近所のダチョウにいたっては「きせきのなんこう」をくれますが、効果はなし。
シマウマとうさんは人目が気になってノイローゼになり、悪夢まで見るように……。ついには、怪しげな広告で見かけた“まじない師”のもとを訪れます。
そのまじない師の待合室で、高所恐怖症のため首をまっすぐ伸ばせないキリンくんに出会います。すると、シマウマとうさんはキリンくんの力になることばかり考えるようになり、首を支えるマシンのようなものを設計して作ってあげることに。とうさんの症状は悪化してついにシマが一本もない真っ白な体になりますが、「シマなんてなくてもこまらないさ」と本人は全く気にしなくなり……というストーリーです。
――なんだか、独特なストーリー展開ですね。
そうかもしれません。待合室で(しかも「まじない師の待合室」で!)隣り合わせたキリンくんの悩みを知って、解決のために夢中になるのですが、なぜ出会ったばかりのキリンくんを必死に助けようとするのか、シマウマとうさん自身の病気はどうなったのか、説明がないままお話がプツッと終わるんです。ノイローゼになって悪夢を見るくらい深く悩んでいたのに。結局、まじない師が何かまじなってくれたのかどうかも分かりません。
必ずオチがあるというか、きちんと物語を着地させることの多い日本の絵本とは、かなり異なった不思議な味わいです。
――よかった、前田さんもオチがわかってなかったんですね。安心しました(笑)。でも、なぜこの独特な絵本を日本で出版しようと思ったのでしょうか?
ジョージアだけでなく、その周辺の中東地域などの絵本も多く見てきたのですが、絵が魅力的でも時として構成がめちゃくちゃで、翻訳には向かなさそうな作品にも多く出会います。「起承転結」ではなくて、「起承転転」というような構成だったり、物語が着地せずにどこかに飛んでいってしまう感じで。この絵本を初めて読んだときも「え、それで終わりなの?」と、急にハシゴを外されたような感覚を味わいました。個人的には、そのまま3年ぐらい「どういうことなんだろう?」とボーゼンとしていたのですが(笑)、やっぱりよく分からない。
でも、オトボケ感のある絵にはなんともいえない味わいがありますし、それに、シマウマかあさんが背中のたてがみにカーラーを巻いていたり、シマウマぼうやがヘッドフォンをしていたり、そんなディテールも面白かったんです。
シマが減っていくことに悩んでジタバタするとうさんの姿も、なんだかユーモラスです。洗濯物を干すロープを体に巻き付けて模様をつけてみたり、黒いビニールテープを体に貼って、シマが少ないのを誤魔化そうとしたり(笑)。
近所のダチョウが怪しい軟膏(なんこう)をくれるとか、「どんな病気も治します」というまじない師の怪しい広告に引っ掛かってとうさんが会いに行ったりするような、日本の絵本ではあまり見られない展開も魅力の一つです。
■「髪をなくしたウチのとうさん」!? 世代によって違った読み方ができるのも魅力
――このシマウマとうさんがあがく様子は、人が悩む姿にも似ているなと思いました。
実は薄毛に悩む方をシマウマとうさんに重ね合わせる方もいらっしゃるようで、「髪をなくしたウチのとうさん」というレビューもありました。
――うまいことを言う方もいるものですね。
さらに、年齢を重ねて小さな字が読めなくなったり、体力が衰えてきたといった悩みを、シマウマとうさんに重ね合わせて読んで下さるアラフィフ読者もとても多いんです。また、人助けに夢中になるシマウマとうさんの様子を、社会福祉士の方が、「福祉の心のようだ」と言って下さったり。
一方、子どもは物語の世界にしっかり入り込んで読んでくれるので、読み終えた子たちは、「で、シマウマとうさんのシマはどうなったの?」って言います。「気になるよ~」と。でも、大人は、消えたシマの顛末が分からないまま物語が終わることに、何か意味を見いだそうとするんですね。
中学生くらいの子たちは、シマを失っていくシマウマとうさんのジタバタを、“自分らしさ”を失うことへの不安ととらえて、自分にとっての「らしさ」って何だろうと、思春期の悩みと重ねながら読んでくれることもあるようです。
思いもよらなかった様々な角度からの感想が届き、本当に驚きました。いずれもこの絵本を初めて読んだときには想像もしなかった読み方です。すごく深いんだけど、シマウマ一家のおトボケ感がにじみ出ていて、説教臭くないところがいいのかもしれません。
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