
写真はイメージです
「チームをうまくまとめられない」「部下が思うように動いてくれない」……人知れず悩みを抱えるリーダーは意外と多いもの。国内外の電機メーカーで技術者として20年以上勤務し、多くの部下を育て上げた深谷百合子さんも、かつては悩めるリーダーのひとりでした。試行錯誤しながら自分らしいリーダーのあり方を見出し、現在、企業や各種団体のリーダー研修にたずさわる深谷さんに「人を育てるコツ」について伺いました。
※本記事は『不安が消えてうまくいくはじめてリーダーになる女性のための教科書』(深谷百合子 著)より一部抜粋・再構成しています。
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お互いに見ている「事実」が違うことも……
世代も考え方も違う人が集まっている職場で、信頼関係を築くには、日頃のコミュニケーションが非常に重要です。たとえば、
「会議に遅刻してくることが多い」
「うっかりミスが多く、顧客から担当を変えてほしいとクレームがきた」
チームメンバーのこうした「問題」に直面したとき、「リーダーとしてピシっと注意できるだろうか」と不安に思う方もいるのではないでしょうか。人に注意をしたり、その人にとって耳の痛い話をしたりするのは、エネルギーがいるものです。
私は、メンバーに嫌われることを恐れて、「今度から気をつけてね」と言うのが精一杯で、最初はなかなか注意することができませんでした。また、こちらにそのつもりはなくても、相手に「パワハラ」だと受け止められてしまったら、不本意ですよね。
問題のある行動を改善してもらいたいときには、「客観的な事実」に着目するのがポイントです。
コミュニケーションがうまくいかないときは、多くの場合、同じ事実でもとらえ方が人によって違うことに起因しているため、「相手が見ている事実は何か」を知ろうとすることが必要です。自分から見えていることだけで判断すると、大事なことを見落としてしまう可能性があるからです。
何か問題が起きたときも、「何で?」ではなく「何があったの?」と相手が見ている事実を確認してみる。それだけで感情的にならずにすみ、思い違いや誤解を防ぐことができます。
問題となる「具体的な行動」について指摘する
詳しい説明はここでは省きますが、アメリカのビジネスコンサルタントで「NLP=神経言語プログラミング」の共同開発者であるロバート・ディルツ博士によれば、「人の意識」には6つのレベルがあります。
人をほめるときは、目に見える結果や行動だけをほめるのではなく、上位の「能力」や「信念・価値観」「自己認識」に関するところに目を向けるとよいとのこと。人間性に近い部分に寄り添ってほめると、ほめられた側の承認欲求が満たされるからです。

【6つの意識レベル】 ※ピラミッド状に下6)→上1)の6段階
一方、注意をするときは、この逆です。意識レベルの下のほうの「行動」や「環境」について伝えるようにします。「環境」とは、いつ、どこで、といった外的な状況のことをいいます。
「会議に遅刻してくる」「うっかりミスが多い」「仕事の納期を守れない」といった人に対して、「あなたはだらしがない」「あなたはまだ学生気分でいるようだ」「あなたは仕事が遅い」など、「あなたは○○だ」という言い方は、相手の「自己認識」「信念・価値観」「能力」を否定した言い方です。こうした言葉は、相手を傷つけます。「人格を否定された」と感じる人もいるでしょう。
改善したいのは「問題のある行動」です。「あなたは○○だ」ではなく、「あなたの○○という行動が問題だ」というように、具体的な行動を指摘するようにします。
問題を引き起こす「環境」にも目を向ける
さらには、そうした行動を引き起こす「環境」に問題がある場合も考えられます。
たとえば、「そもそも会議の設定時間に問題がある」「ミスを予防できる仕組みがない」といった問題です。「環境」を改善するだけで、「問題のある行動」が改善する場合もあります。
「何があれば改善できるか」を、対象メンバーと一緒に考えてみるといいですね。そのうえで、「どうすればよいか」具体的な行動を相手に考えてもらいましょう。「今度から気をつけます」ではなく、「今度からこうします」というように、具体的な行動を決めてもらうことが大事です。
メンバーの「問題のある行動」を改善するときには、「客観的な事実」としての「具体的な行動」と「その行動を引き起こす環境」に着目しましょう。メンバーの成長や職場の環境改善につなげることができます。
深谷百合子(ふかや ゆりこ)
研修講師/合同会社グーウェン代表。大阪大学卒業後、ソニーグループ、シャープで工場の環境保全業務を行う。2006年、シャープ亀山工場初の女性管理職となり、約40名の男性部下を抱えるが、仕事を任せられず、リーダーシップとは何かに悩む。失敗して萎縮する部下のフォローをする中で、自分らしいリーダーのあり方を見出す。2013年から部長職として中国国有企業との新工場建設プロジェクトに参画。その後、中国国有企業へ転職。動力運行部の技術部長として約100名の中国人部下を育成する。現在は、職場コミュニケーションの改善を主なテーマに、講演や研修を行っている。著書に『賢い人のとにかく伝わる説明100式』(かんき出版)がある。
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