SNSでよく見るやつ……紀元前の「論破厨」に中国思想家「荘子」はどう答えた? 頭がくらくらするけど面白い『荘子の哲学 斉物論篇』試し読み
試し読み
- Book Bang編集部
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- (哲学・思想)
やたら相手に議論を吹っかけて打ち負かそうとする人を「論破厨」という。
あなたが「このネコ楽しそう!」とSNSに投稿したら、「君はネコじゃないからネコの楽しみなんてわかならいでしょ」とか言い出す人だ。
2000年以上前の紀元前・中国で生み出された、まるで論破厨とのやり取りのような「荘子」の一節を紹介してくれるのが、中国思想研究者の山田史生さんだ。
孔子や老子などの超有名な中国思想をわかりやすく伝えてきた山田さんの新著『荘子の哲学 斉物論篇』(トランスビュー)より、冒頭部分をBook Bangで特別公開!
「頭がくらくらする」けど面白い“荘子ワールド”へいざ踏み出してみよう。
(※『荘子の哲学 斉物論篇』がもっと面白くなる、著者インタビューはこちらから)
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端書き
荘子の哲学とはまた大風呂敷をひろげたものだ。が、この本はたしかに荘子の哲学について論じている。看板にいつわりはない。
もっとも、この本が論ずる対象としているのは『荘子』のなかの斉物論篇だけだ。もちろん全篇を論ずるに如くはない。けれども、それはぼくの手に余る。高望みせず、斉物論篇をとことん吟味したい。
論者の力不足という事情は措くとして、論ずべき一篇をえらぶとなれば、否も応もなく、それは斉物論篇だ。他篇を軽んずるわけではない。斉物論篇をとりわけ重んずるからだ。
『荘子』のなかで斉物論篇はどんなふうに位置づけられるのか。ある識者はこう評している。
本篇の第一章(斉物論篇の天籟寓話・引用者注)は、中国古代における道家の思想の歴史的展開の開幕を告げる、モニュメンタルな問答である。この問答は、『荘子』を始めとする道家の諸文献の中で最も早く成立し、したがって、その最も重要な文章の一つである。同時にまた、道家の諸文献の中で、いやそれどころか中国古代のあらゆる文献の中で、最も難解な思想の表現である。本篇本章の思想内容を理解することができたならば、『荘子』の諸思想、さらには道家の諸思想は、その過半を理解できたと言っても言い過ぎではないほどである(池田知久『荘子』上・講談社学術文庫・108頁)
斉物論篇の冒頭にある天籟寓話をしっかり理解すれば、それだけで荘子の哲学の「その過半を理解できたと言っても言い過ぎではない」ならば、それでもう御の字じゃないだろうか。まして斉物論篇をひととおり吟味するならば、きっとお釣りがくるだろう。
郭慶藩撰・王孝魚点校『荘子集釈』新編諸子集成・中華書局
みぎの書を底本とする。そして該書におさめられる郭象の注をときおり参看する。
金谷治『荘子』岩波文庫(「金谷本」と略記)
福永光司・興膳宏『荘子』ちくま学芸文庫(「福永本」と略記)
池田知久『荘子』講談社学術文庫(「池田本」と略記)
これらの文庫本を机辺にそなえ、任意にながめる。ただし参看はあえて最小限にひかえる。
斉物論篇をひもといていると、酩酊したかのように頭がくらくらしてくる。こんなおもしろいものを先学の解釈によりかかって読むなんて、ネットでしらべた人気店にゆき、供された料理をうまいと信じこむようなものだ。バイアスをかけずに自分の舌で味わいたい。
なにぶん「中国古代のあらゆる文献の中で、最も難解な思想の表現」だから、ぼくの脳ミソではちゃんと読めないかもしれない。でも、はなから読めるとわかっているものを読んでもつまらない。
なんでもかんでもコストパフォーマンスのよしあしで評価しようとすると、ひどく貧乏くさくなる。貧乏なのはわるいことではない。しかし貧乏くさいのはよろしくない。
読めないかもしれないといった貧乏くさい気づかいはポイと捨てて、さっそく読みはじめよう。
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