「近代日本経済の父」と呼ばれ、新1万円札の顔として注目を集める渋沢栄一の代表的著作といえば、『論語と算盤』。多くのビジネスマンに支持されるだけでなく、大谷翔平選手もこの渋沢の著作を愛読して『論語』の教えを学んでいるという。『論語』が孔子の思想をまとめたものだということは常識だが、実際に読破した方はどれだけいるだろうか。
孔子、老子、荘子などの中国の思想家については「何となく立派なことを言ってそうだけど難しそうで」と敬遠してきた方も少なくないはず。
そんな人に向けて、これらの思想をわかりやすく解説する著作を多く発表してきたのが、中国思想研究者の山田史生さんだ。
山田さんによれば、孔子は「身長2メートルで喧嘩に強いカリスマ教師」、老子は「孤高の賢者」、荘子は「巷(ちまた)の賢者」とのこと。そんなふうに聞くと、何だか親しみやすく感じるというか、ハードルが低く感じられるのではあるまいか。
『論語』の面白さや、孔子をはじめとした中国思想家の特徴、また現代を生きる我々の悩みにこれらの思想がどう役立つのか、山田さんに聞いてみた。
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「両極端」を捨てない中国思想!“真ん中”に対する西洋との違いとは
――中国思想とは、そもそもどんな考え方なのでしょうか?
中国思想を考えるうえで重要なものの一つに、陰陽思想という考え方があります。陰・陽はそれぞれ性質が真逆なものですが、「陰中に陽あり、陽中に陰あり」というように、陰陽は入り交じっており、陰だけ、陽だけというのはあり得ないという発想なんです。
例えば、男性と女性という二つの性別があったとしても、100%男性だけ、女性だけということはなく、男性の中にも女性的なものがあり、女性の中にも男性的なものがあるというわけです。その割合が、それぞれ多かったり少なかったりはしますけどね。そして、この陰と陽とのバランスは一定でなく、絶えず変化し続けると考えるのです。
これがよりわかりやすいのが、中国での「中庸」という考え方です。ギリシャ哲学のアリストテレスが説く「中庸(メソテース)」は“真ん中”を意味しますが、中国思想の「中庸」は右と左の両端を取ることなんです。中国思想にとっての“真ん中”というのは、右端も左端も含んでいること。実際、人間の感情だって笑ったり怒ったり両極に振れるもので、いつも真ん中にあるわけじゃない。「現実はそういうものだろう」という、中国思想の現実的である特徴がよくわかる考え方ですね。
そして、この「中庸」を説いたのが、孔子という人物なのです。
山田史生
1959年、福井県生まれ。東北大学文学部卒業。同大学大学院修了。博士(文学)。現在、弘前大学教育学部教授。著書に『渾沌への視座 哲学としての華厳仏教』(春秋社)『日曜日に読む「荘子」』『下から目線で読む「孫子」』(以上、ちくま新書)『受験生のための一夜漬け漢文教室』『孔子はこう考えた』(以上、ちくまプリマー新書)『門無き門より入れ 精読「無門関」』(大蔵出版)『中国古典「名言200」』(三笠書房)『脱世間のすすめ 漢文に学ぶもう少し楽に生きるヒント』(祥伝社)『もしも老子に出会ったら』『絶望しそうになったら道元を読め!』『はじめての「禅問答」 自分を打ち破るために読め!』(以上、光文社新書)『禅とキリスト教 人生の処方箋』(共著)『禅問答100撰』(以上、東京堂出版)『龐居士の語録 さあこい!禅問答』(東方書店)『物語として読む全訳論語 決定版』『哲学として読む 老子 全訳』(トランスビュー)など。
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