【話題の本】『田名網敬一 記憶の冒険』田名網敬一著、国立新美術館編

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■「奇想の王」の脳内

幼少期の戦争体験など脳内で増幅される「記憶」を主題に、極彩色で独創的な作風が国内外で評価されてきた著者の大規模回顧展が11月まで国立新美術館(東京)で開催中だ。600点超の図版で60年の創作の軌跡を総括した本書はその公式図録。今月から書店でも販売されている。

デザイナーとしてデビューした著者は絵画、コラージュ、アニメなどジャンルを越境するアーティストとして活動。本書の制作では、印刷技術を知り尽くした著者自らがレイアウトやカバーをチェックし、色校正を繰り返すなどした。版元の鎌田恵理子編集委員も「早くて的確、迷わない。まさにプロフェッショナルな仕事ぶりだった」と話す。

著者は回顧展開幕2日後の先月9日に亡くなった。享年88。本書には「コロナ禍前よりも忙しい」と表現への情熱を最期まで持ち続けていたことが分かるインタビューも収録。「アーティストである以上は、狂気がないと駄目。でも、人間自体が狂気になったらまずいでしょう。だからあくまで普通の人間でいたい」。〝奇想の王〟への理解を深める一冊。月刊『PLAYBOY日本版』の初代アートディレクターに就任するなどした1970年代の活躍を知る世代が購入しているという。(青幻舎・4950円)

斎藤浩

産経新聞
2024年9月21日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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