圧倒的な才能で周囲を魅了した天才少女が事故死…「演劇学校」を舞台に死の真相に迫ったミステリ作品 『少女マクベス』試し読み

試し読み

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『女王はかえらない』で「このミス」大賞を受賞した降田天の新作『少女マクベス』(双葉社)が刊行されました。

 降田が今作で描くのは「演劇学校」を舞台とした学園ミステリーです。演劇女子学校で「神」と崇められていた少女・設楽了の突然の死の真相に迫る本作は、思春期の少女たちの揺れ動く心や演劇という世界の光と闇を描ききった一作。

 今回は試し読みとして、本作の冒頭の一部を公開します。

 ***

その幻にたぶらかされ、
あいつは破滅へまっしぐら。
運命を足蹴に、死をあざけり、
神の恵みも分別も恐怖心さえ忘れ去り、野望のとりこだ。
分かっているね、人間どもの大敵は
自信過剰というやつだ。

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 高らかなファンファーレとともに、最後の台詞が終わった。
 拍手が起きるまでのごくわずかな空白の時間、結城さやかは無意識に身を硬くしていた。客席から見ていたかぎり、公演は成功だったと思う。大成功と言ってもいい。しかしそれは演出を担当した自分の感想であり、観客にとってはそうではないかもしれない。
 盛大な拍手が湧き起こり、さやかはほっと緊張を緩めた。さやかと同じ三年生で演出助手を務めた南芽衣が、隣の席で激しく手を叩きながら顔を寄せてささやく。
「やっぱりすごい。別格だよね」
 さやかは無言で拍手に加わった。芽衣の言葉に異論はないが、ないからこそ、無邪気に「だよね」とは言えない。
 舞台上では出演者が勢ぞろいして観客に頭を下げている。プロセニアム形式と呼ばれる額縁型の舞台だ。幅は約十一メートル、奥行は十二メートル、高さは可変式で七メートルから九メートル。その頭上から深紅の緞帳が下りてくる。
 緞帳の裾には〈百花演劇学校〉の六文字が金糸で刺繍されている。
 名のとおり演劇に携わる人材を育成する教育機関だが、特徴的なのは、入学資格を有するのは中学校もしくはこれに準ずる学校を卒業した女性のみという点だ。一般的な高校生に相当する年齢の少女たちが日本全国から集い、都内の寮で寝起きしながら三年間かけて専門的な勉強をする。

降田天
執筆担当の鮎川颯とプロット担当の萩野瑛による作家ユニット。少女小説作家として活躍後、2014年に「女王はかえらない」で第13回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞し、降田天名義でのデビュー。18年、「偽りの春」で第71回日本推理作家協会賞(短編部門)を受賞。著書に、「偽りの春」が収録された『偽りの春 神倉駅前交番 狩野雷太の推理』『彼女はもどらない』『すみれ屋敷の罪人』『ネメシスIV』『朝と夕の犯罪』『さんず』『事件は終わった』などがある。

双葉社
2024年10月1日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

双葉社

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