コスパやタイパを重視する人が見落としてしまっていることがある 養老孟司さんが語る「厄介な人生を軽く生きる」ためのヒントとは 『人生の壁』試し読み

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『バカの壁』に始まる養老孟司さんの「壁」シリーズ7作目となる最新刊『人生の壁』が刊行されました。今回のテーマはずばり「人生」。養老さんが自身の人生を振り返りながら、悩み多き現代人に「こう考えたら楽になるのでは」と優しく語りかけた1冊です。

 とかくコスパなど効率を重視する風潮に対して、養老さんは「それで本当にいいのでしょうか」と疑問を投げかけています(『人生の壁』第5章からの抜粋です)。

コスパを追求して何になるのか

 厄介なことを避けたいのは当然です。しかし、人生において効率のみを追求することはおすすめしません。大切なのは、精一杯生きること、本気で生きることです。

 好きな言葉に「メメント・モリ」と「カルペ・ディエム」があります。いずれもラテン語で、「メメント・モリ」は「死を想え」、「カルペ・ディエム」は「今日を精一杯生きろ」。

 二つの言葉は対になっていて、中世の修道院で挨拶のように応酬されていたといいます。最近、ヤマザキマリさんは『CARPE DIEM 今この瞬間を生きて』(エクスナレッジ)という本を出しました。茶道の裏千家の代表的な茶室、今日庵(こんにちあん)も同じ考えから名づけられています。「今日を生きる」ことの大切さが名前の由来です。

 しかし、この「今日を精一杯生きる」ことへの思いが今は足りないのではないでしょうか。本気で死を思っていないから、精一杯生きることも真剣に考えていない。

 がんになって余命宣告でもされれば、「今日」の大切さに気付くのでしょうが、普段はそうはならない。

 余命一年だと言われれば、会社を辞めようと思う人は多いでしょう。しかし、ではなぜ今辞めないのか。生活のために働く必要があるのは当然として、現代人は本気で生きることを考えていないのではないか。

養老孟司
1937(昭和12)年、神奈川県鎌倉市生れ。解剖学者。東京大学医学部卒。東京大学名誉教授。1989年『からだの見方』でサントリー学芸賞受賞。2003年の『バカの壁』は450万部を超えるベストセラーとなった。ほか著書に『唯脳論』『ヒトの壁』など多数。

新潮社
2024年11月18日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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1896年(明治29年)創立。『斜陽』(太宰治)や『金閣寺』(三島由紀夫)、『さくらえび』(さくらももこ)、『1Q84』(村上春樹)、近年では『大家さんと僕』(矢部太郎)などのベストセラー作品を刊行している総合出版社。「新潮文庫の100冊」でお馴染みの新潮文庫や新潮新書、新潮クレスト・ブックス、とんぼの本などを刊行しているほか、「週刊新潮」「新潮」「芸術新潮」「nicola」「ニコ☆プチ」「ENGINE」などの雑誌も手掛けている。

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