「投資を始めるなら安値から」が大間違いなワケ 「底値で投資」VS「毎月定額」の“正解”を専門記者が解説

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一度決めた方針は変えない、たったこれだけを困難にさせる人間の「本能」

 ここまで述べてきたことをまとめると、投資における最も重要なルールの一つは、一度決めた方針を変えないということだ。ひとたび株と債券の配分を決めたら、何も変えないのが一番だ。手元に資金があるときは追加投資していく。資金が必要なときは引き出す。それだけだ。

 それを難しいと感じるのは、私たちは優れた投資家になるように生まれついていないからだ。人類が地球に誕生してから何十万年も生き延びてきたのは、危機が起きたときにのんびり構えていなかったからだ。敵に食料を略奪されたり、家が火災の危険にさらされたりしたら即座に反応したのだ。

 だが投資の世界では、こうした反射的ふるまいは凶と出る。

 投資家で作家のパトリック・オショーネシーはこんな言葉で表現する。「どうすればうまくいくかあれこれ考えるより、ありふれた落とし穴を回避することに集中せよ」

 オショーネシーは運営するポッドキャスト『インベスト・ライク・ザ・ベスト(達人のように投資しよう)』で、アフリカでサファリをしたときのエピソードを語っている。ガイドはライオンが襲ってきたら足を止めてじっとしていろ、走って逃げようとすると攻撃されるリスクが高まるから、と口を酸っぱくして言っていたという。

「ライオンが襲ってきたら逃げるな、と100回は言われた。ガイドはみな50回以上襲われたことがあるという。走って逃げなければライオンはかかってこず、襲われずに済む。この知恵を100回聞いて頭に叩き込んでおく必要があるのは、投資のときと同じように人間の本能は『逃げろ!』と訴えかけてくるからだ」

 自分の運用資産があっという間に目減りしていくのを目の当たりにすると、脳は怒ったライオンに襲われたときのような恐怖を感じる。昨日まで自分の懐にあったお金が消えてしまう。体内の細胞の一つひとつが脅威を撃退するために何か(なんでもいいから)しなければと焦る。

 相手がライオンであるときもそうだが、生き残る秘訣は脅威と戦うことではなく、自分の本能と戦うことだ。

***

 同書では、ほかに「なぜ自身の投資は行き詰まるのか」や、「個別銘柄とインデックスどちらがいいか」、「結局資産を増やすにはどうしたらいいのか」ということも、データや取材をもとに解説されている。投資の初心者、玄人のいずれも耳を傾けたくなる情報があるからこそ、世界的なベストセラーになったのだろう。

著者:ニコラ・ベルベ(Berube,Nicolas)
 1977年カナダ生まれ。金融ジャーナリスト、カナダの大手新聞ラ・プレスの経済記者。同紙初の米西海岸特派員として活動、全国新聞賞など各賞を受賞。カリフォルニア州ロサンゼルス在住。『年1時間で億になる投資の正解』は当初フランス語版がカナダで出版、ベストセラーとなり、世界各国で刊行の予定。

新潮社
2024年11月22日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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1896年(明治29年)創立。『斜陽』(太宰治)や『金閣寺』(三島由紀夫)、『さくらえび』(さくらももこ)、『1Q84』(村上春樹)、近年では『大家さんと僕』(矢部太郎)などのベストセラー作品を刊行している総合出版社。「新潮文庫の100冊」でお馴染みの新潮文庫や新潮新書、新潮クレスト・ブックス、とんぼの本などを刊行しているほか、「週刊新潮」「新潮」「芸術新潮」「nicola」「ニコ☆プチ」「ENGINE」などの雑誌も手掛けている。

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