ついに夢のワールドシリーズ優勝を果たした大谷翔平選手(30)。漫画のようなサクセスストーリーに心躍らせた人は多いはずだ。
気になるのはシリーズ中の左肩亜脱臼の影響だが、これよりもはるかに深刻な故障も乗り越えてきた大谷選手なので、きっと難なくクリアしていることだろう。来シーズンには、本格的な二刀流復活も期待されている。
そもそも、メジャーでのデビューシーズンにも大谷選手は肘の故障を経験している。1度目のトミー・ジョン手術を受けたときだ。2018年シーズン、華々しいデビューを飾った矢先のケガに、大谷選手はどう向き合ったのか。
チームメイトや現地米国記者の証言がふんだんに盛り込まれた取材録がある。『大谷翔平 二刀流メジャーリーガー誕生の軌跡』(ジェイ・パリス、辰巳出版)だ。当時も日本メディアは怪我に消沈し騒ぎ立てたが、当の本人は違っていた。大谷の姿を至近距離で目撃していた人々の貴重な証言を振り返ってみる。
※以下は『大谷翔平 二刀流メジャーリーガー誕生の軌跡』(辰巳出版)をもとに再構成したものです。
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■同僚投手が語った大谷のメジャー移籍「お金のためではない」
2018年当時、すでに世間では、大谷は契約金制限のなくなる25歳を待たず、シーズン終了後にメジャーへ行くという噂が流れていた。
田中将大はメジャー行きを遅らせたため、ニューヨーク・ヤンキースと総額1億5500万ドルの7年契約を結ぶことになった。それに比べると、契約金230万ドル、メジャーリーグの最低年俸54万5000ドルという大谷の契約条件が、いかに破格であるかがわかるだろう。
エンゼルスは史上最大のバーゲンセールに勝利し、大谷を6年間在籍させることが見込まれたが、日本ハムもまたこの契約の恩恵を受けた。ポスティング・システムによって大谷のメジャー移籍を実現させ、2000万ドルの譲渡金を受け取ったのだ。
巨額の契約金が幻となったことなど、大谷は気にしていなかった。メジャーで二刀流選手としてやっていくことは、金には代えられない価値があるのだ。むしろ報酬面を気にせずにすんでよかったと本人は思っており、騒いでいるのは周囲やメディアばかりだった。
「その事実が大谷のすべてを物語っている」
エンゼルスの投手であったタイラー・スキャッグスは、大谷が契約した際にニューヨーク・タイムズ紙に語った。
「彼はお金のためにアメリカに来るのではないと示したんだ。野球をやるためだけに来るのさ」
■米国記者が目のあたりにした大谷独特の“流儀”
大谷の偉大さは、ユニフォーム姿で見せるパフォーマンスの質や、160km超えの投球や137m超えのホームラン、そしてそれに酔いしれる大観衆だけで測れるものではない。
心の奥底で、彼は他人と違うことをやってみたいという思いを抱いていたのだ。自分だけの独自の野球をやりたいという、確固たる信念を持っていた。
単純に考えれば、練習時間を投打の双方に半分ずつ割り当てればいい。しかし、大谷は誰よりも努力した。そうすることで、人々の常識を覆そうという大谷の挑戦は、誰も予想しなかった野球を可能とし、周りの意識を変えていくことになった。
大谷の信じられないようなプレーは1世紀近くも人々が目にしていなかったものであり、それゆえに彼の人気には一気に火がついた。
ファンが大谷に惹きつけられるのは、メジャーリーグという高いレベルの場で彼が新たな挑戦をしているからでもある。彼自身にしか見えないであろう山頂を目指して邁進していく姿が、人々の心をとらえるのだろう。
さらに、大谷独特の“流儀”もまた、称賛の的となっている。
親の目線で見てみると、大谷は非常に礼儀正しい人物であることに気づく。日本の文化をそのままに、大谷は誰かに近づくときに礼をする。それが相手チームのキャッチャーや審判であっても、その日の最初の打席に入るときには礼を欠かさない。
打球がとらえられてアウトとなれば、戻って自分が放り投げたバットを取りに行く。フォアボールで歩く際は、足首、肘、手首からサポーターを外し、綺麗にまとめてバットボーイに渡す。
【著者】ジェイ・パリス
スポーツ・ジャーナリスト。主な著書に『Game of My Life San Diego Chargers』、『Game of My Life Rams』などがある。全米プロフットボール記者協会の記者賞を3度受賞しており、現在はMLB.com、Forbs.com、AP 通信の記者として活躍している。カリフォルニア州、サンディエゴ在住。
【訳者】関 麻衣子
千葉県生まれ。青山学院大学文学部卒。おもな訳書に『その輝きを僕は知らない』ブランドン・テイラー、『ボーイズクラブの掟』エリカ・カッツ(いずれも早川書房)、『リオネル・メッシ(MESSI GRAPHICA)』サンジーヴ・シェティ(東洋館出版社)など。
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