「無限に申し込みができる」自治体のプレミアム付商品券を不正利用する転売ヤーの手口とは

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プレミアム商品券を利用した手口とは?(写真はイメージ)

 推しグッズに限定品、発売前から人気の新商品。絶対に手に入れたいアイテムが発売と同時に売り切れてしまうのはなぜか。

 それは、熱狂の陰で暗躍する「転売ヤー」がいるからだ。

 注目の商品を大量に買占めては高額で売り飛ばす彼らの存在はこれまでも取り沙汰されていたが、その手口と生態は謎に包まれたまま。そこに初めて切り込んだのが奥窪優木氏だ。

 取材を通して知った転売方法の一つが、自治体のプレミアム付商品券を利用した手口だ。奥窪氏が接触したSはアウトドア用品の転売を手掛けているというが、普通に転売したのでは利益は生まれない。

 では、どのように利幅を増やしているのか? そのカラクリを奥窪氏の著書『転売ヤー 闇の経済学』(新潮社)から、一部抜粋・編集して紹介する。

株主優待券や商品券を悪用したカラクリ

 新たな調達先として選んだのは、都内のあるアウトドアショップだった。その店舗には、アウトレットコーナーが常設されており、2割から3割値下げされた型落ち商品などが並んでいた。その程度の値下げ幅では、転売しても利益は生まれない。フリマサイトの販売手数料と送料で、赤字になることが目に見えている。

 そこで利用するのが株主優待券だ。同店の運営企業の株主優待券があれば、セール価格の商品も含め、会計時に20%引きとなるのだ。Sは株主ではなかったが、フリマサイトで2000円ほどで株主優待券を購入できた。会計の総額が1万円以上になる時に使用すれば、元がとれる計算だ。

 さらに支払いに用いるのが、商店街組合などが自治体の出資のもとに定期的に発行している地域限定の「プレミアム付商品券」だ。例えば「プレミアム率20%」に設定されている商品券の場合、額面1万2000円分の商品券を1万円で購入することができる。割引率にして16・7%だ。

 このように、定価の2割引のアウトレット商品を株主優待券でさらに2割引とし、プレミアム付商品券で実質16・7%引きで支払う場合、0.8×0.8×0.83=0.5312という計算式が成り立ち、定価の約53%、つまり47%引きで商品を仕入れられるカラクリだ。商品さえ厳選すれば、転売して利幅を取ることが可能なのだ。

 プレミアム付商品券は、販売対象者について「発行元の商店街組合が所在する自治体の住民」か、「在勤者」のみに限っているものがほとんどだ。Sは、アウトドアショップで使えるプレミアム付商品券が発行されている自治体の住民ではない。

 この自治体のプレミアム付商品券は、紙とデジタルという2つの形式で発行されている。ともに申し込みは公式サイト上で行い、その際には名前や住所、メールアドレスなどを入力する。その後、抽選が行われ、当選者に商品券の購入権付与(毎回異なるが2~3万円程度の上限付き)が行われる。

 紙の場合は申し込み時に登録した住所にハガキが送付され、それを持参して役所や郵便局に行き、本人確認書類とともに提示することで商品券を購入する。つまり、ハガキを受け取る住所のない非住民は、購入することができないのだ。

 一方のデジタル商品券の場合、当選者にはメールアドレス宛に購入用IDとパスワードが送付され、公式サイトでそれらを打ち込むことでオンライン購入できる。つまり、フリーメールのアドレスさえ用意すれば、あとは偽名と自治体内の適当な住所で、無限に申し込みができるのだ。

奥窪優木
1980年、愛媛県松山市生まれ。フリーライター。上智大学経済学部卒後に渡米。ニューヨーク市立大学を中退、現地邦字紙記者に。中国在住を経て帰国し、日本の裏社会事情や転売ヤー組織を取材。著書に『中国「猛毒食品」に殺される』『ルポ 新型コロナ詐欺』など。

新潮社
2024年11月29日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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1896年(明治29年)創立。『斜陽』(太宰治)や『金閣寺』(三島由紀夫)、『さくらえび』(さくらももこ)、『1Q84』(村上春樹)、近年では『大家さんと僕』(矢部太郎)などのベストセラー作品を刊行している総合出版社。「新潮文庫の100冊」でお馴染みの新潮文庫や新潮新書、新潮クレスト・ブックス、とんぼの本などを刊行しているほか、「週刊新潮」「新潮」「芸術新潮」「nicola」「ニコ☆プチ」「ENGINE」などの雑誌も手掛けている。

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