親会社のブランドを使うブランディングと使わないブランディングの違いとは? 元日本マーケティング学会会長がシンプルに解説

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親ブランドと子ブランド。親の七光りで子も輝くか? 子の力だけで歩んでいくか?

 親ブランドとの関係性や子ブランドが持つ力などによって、施策はさまざまです。親会社のブランドを使うブランディングと使わないブランディング、その違いはどのようなものでしょうか? 『サクッとわかるビジネス教養 ブランディング』(田中洋監修/新星出版社)から、自動車の例をとってみてみましょう。

 現在のMINIはドイツの自動車メーカーBMWが開発し、2001年に登場しました。BMWの小型車ブランドとして位置付けられています。また、LEXUSは、トヨタ自動車が展開する高級車ブランド。1989年に北アメリカで、2005年に日本で発売を開始しました。MINIもLEXUSも、BMWやトヨタ自動車の冠がなくとも、単独でブランドとして成立していますが、BMW、トヨタ自動車といった親ブランドは、子ブランドを影で支える役割を果たしているのです。

 LEXUSは高級車ブランドとして地位を築いていますが、トヨタ自動車というビッグブランドを親ブランドとして持っています。このように親ブランドが子ブランドを影で支えるブランド戦略を「シャドー・ブランディング」と呼びます。これは、次に解説する「デ・ブランディング」の一種です。親ブランドが持つ知名度や信頼性などの恩恵を子ブランドが受けられる効果があります。

 一方で、過去にいくつもの企業に買収されてきたロールス・ロイスのように、親ブランドの名前を出さないほうがいい、もしくは出さなくても確立できている子ブランドも存在します。

ブランド名を使わないブランド戦略「デ・ブランディング」

 あえてブランド名や企業名を使わないブランド戦略を「デ・ブランディング」と呼びます。ブランドや企業を象徴するロゴやキャッチコピー、商品パッケージだけでアピールすることでブランド色や企業色をいったんなくします。これによってブランドは顧客とパーソナルな関係性を構築することができるのです。また、ロールス・ロイスのように、親ブランド(=BMW)の名前を出さない戦略もデ・ブランディングに含まれます。

 コカ・コーラ社は、ブランドロゴが入っているボトルの中心部分に人物名や、Friendsといった関係性を表す言葉を入れたネームボトルを発売しました。すると、自分の名前だけでなく、家族や友人、ペットの名前のボトルを探して購入し、本人と一緒に撮影してSNSで発信する人が続出し、大ヒットとなりました。

 ロゴの部分を別のワードに差し替えたデ・ブランディング戦略が功を奏したのです。この事例のように、ロゴやブランド名を出さなくても成功できたのは、すでにコカ・コーラブランドが強固なものであったから。世の中に知られていないブランドには真似できない戦略です。デ・ブランディングには、もとから強いブランドでないと通用しないとできないという側面もあるのです。

親ブランドを隠す効果とは

(1)積極的に親ブランドを隠す戦略
 ブランドや企業のM&Aが盛んになるにつれ、子ブランドのみで確立していたほうが有利なケースが増加。親ブランドを隠す戦略がとられるようになった。

(2)親ブランドを匂わせるか? さらに隠すか?
 親ブランドの存在をにおわせるほうが子ブランドにとって都合がよい場合もあれば、隠すことで子ブランドが存在感を発揮できるケースもある。

親ブランドと子ブランドとの距離

(1)親から自立タイプ
 親ブランドの力を借りなくとも、子ブランドだけで知名度も信頼度も確立されている。
〈例〉BMWとロールス・ロイス

(2)親にべったりタイプ
 親ブランドの名称をあえて子ブランドにも入れ、知名度や信頼度を大いに活用する。
〈例〉コカ・コーラとダイエット・コーク

(3)ほぼ兄妹タイプ
 親ブランドと子ブランドという関係もなく、どちらの力もほとんど借りず、同等にブランドとして成立している。
〈例〉ユニクロとGU

(4)親の力を少し借りるタイプ
 積極的に親ブランドの存在をアピールしないが、わざわざ隠しもせず、親ブランドの力を借りる。
〈例〉トヨタ自動車とLEXUS

ブランド名をアピールするだけがブランド戦略ではない

 街にある看板広告などを見ると、印象的なキャッチコピーとロゴのみを用いているものがあります。ここまで述べてきたように、ブランド名や企業名をアピールすることだけがブランド戦略ではなく、ブランド名を使わないブランド戦略もあるのです。

 親ブランドとの関係性や子ブランドが持つ力などによって、施策はさまざまです。最近は企業やブランドのM&Aが盛んなため、子ブランドが親ブランドに関係なく育成されるケースが増えていくでしょう。

田中洋(タナカヒロシ)
中央大学名誉教授 京都大学博士(経済学)(株)電通でマーケティングディレクターとして21年間の実務を経験後、法政大学経営学部教授、コロンビア大学ビジネススクール客員研究員、中央大学ビジネススクール教授などを経て2022年から現職。日本マーケティング学会会長、日本消費者行動研究学会会長などを歴任。マーケティング戦略論、ブランド戦略論、消費者行動論、広告論などを専攻。日本マーケティング学会よりマーケティング本大賞/準大賞/ベストペーパー賞、日本広告学会賞、中央大学学術研究奨励賞、東京広告協会白川忍賞(特別功労賞)などを受賞。著書に『ブランド戦略論』(有斐閣)、『企業を高めるブランド戦略』(講談社)など多数。

Fun-Life!
2024年12月10日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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