彬子女王殿下
「ヒゲの殿下」として親しまれた故寛仁親王を父に持ち、天皇陛下のまたいとこでもある彬子女王殿下(1981年生まれ)。
2015年刊行の『赤と青のガウン オックスフォード留学記』(PHP文庫)は、大英博物館での日本美術研究や、エリザベス女王とのお茶会など、女性皇族のリアルな日々を生き生きと綴り、多くの人々の支持を集めています。
このたび同書がマンガ化され、「小説新潮」2025年1月号およびweb「くらげバンチ」で連載が始まりました(「くらげバンチ」での連載は2025年1月から公開開始予定)。同書のコミカライズに挑むのは、『プリンセスメゾン』などで知られる少女漫画家、池辺葵さん。抒情あふれる絵で綴られる自らの物語に、プリンセスは何を見出すのでしょうか? 心温まる手記を公開します。
大きな声では言えないけれど
「彬子様って漫画読まれます?」
「はい、結構読みます」
「ですよね! そうだと思ってました!」
『赤と青のガウン』の漫画化にあたり、担当をしてくださっている新潮社の岩坂朋昭さんに初めてお会いした時の会話である。岩坂さんは、私が留学記をPHPの「Voice」という雑誌に連載していた時から愛読してくださっていて、「これは絶対漫画にできる!」と思っておられたのだそうだ。
大きな声で言うことではないかもしれないが、私は365日何かしらの漫画を読んでいる。昔から学園ものなどの典型的な少女漫画は苦手で、歴史や魔法など、現実世界でないものは読めるのだけれど、どちらかと言えば少年漫画の方が好きである。ある年の夏、忍者の漫画を全巻借り、高校野球中継の合間にそちらを読むか、キャッチボールをするか悩んでいると友人に話したら、「小3男子の夏休みか!」と突っ込まれた。思考がわりと男性的だと言われるので、少年漫画の方が肌に合うのかもしれない。
そんな話をしたら岩坂さんには、「そうでしょうね。そして私は、彬子様は楽しいことが好きで、おいしいものが好きで、旅が好きで、人が好きな方だと思っていました」と言われた。漫画編集者はエスパーなのだろうか。すべて言い当てられてびっくりしたが、「『赤と青のガウン』を読めばわかります」とのこと。『赤と青のガウン』の魅力と、漫画化することの意義について、深い愛情と熱意を持って語ってくださり、この方にお任せしたらきっと素敵な漫画が出来上がるに違いないと確信した。「よろしくお願いします」と頭を下げて、岩坂さんご一行をお見送りしたのだった。
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- 赤と青のガウン
- 価格:1,320円(税込)
マンガがつないでくれたご縁
漫画家さん探しは大変難航したそうだが、岩坂さんが初心に立ち返り、「この人に描いてほしい!」と思う一番好きな女性向け漫画家である池辺葵先生にお願いしたところ、快くお引き受けくださったと興奮気味の報告を頂いた。なんと池辺先生が「残さないといけない日本のよきもの」「ひとが自立し、ひとりで進んでいく」という2つのテーマを描いてみたいと思っておられたところだったそうで、描きたいシーンも次々と浮かんできており、ぜひやらせて欲しいと仰っているとのこと。本当に不思議な力に導かれた出会いのような気がした。
そうと決まれば、池辺先生に登場人物たちやオックスフォードの風景の写真などをお渡ししなければいけない。ハードディスクの画像データを見直し、使えそうな写真をフォルダに入れていたのだが、あることに気付いてしまった。2002年から1年間、最初の留学時の写真がないのである。おそらくデジタルカメラの時代ではなかったのだと思う。探せば出てくると思うが、簡単には出てこなさそうな気がする。でも少なくとも、3話目に出てくるはずのベネディクトの写真は必要だろうなぁと思い、とりあえずインターネットで名前を検索してみた。すると、すぐに出てきたのである。現在の写真と共に。
ベネディクトは英国の大学で映画や文学などを教えていた。その笑顔は少し老けたけれど、私が知っているあの頃と全く変わらなかった。他にも、フィルムフェスティバルか何かのイベントに登壇している写真が出てきたのだが、紫の細身のズボンに同系色の柄のベストにシャツ。「当時もこんな格好してた!」と笑ってしまった。そのベネディクトの傍らにいたのがアナ。オリエンテーリングの夜に、部屋で一人泣いていた私を呼びに来てくれた人である。20年以上も前の大学時代の友人と未だに一緒に仕事をしているなんて、なんて素敵なのだろう。ベネディクトらしいなと、とてもあたたかい気持ちになった。
スコーン名人のジェイミーにも連絡をしたのだが、驚くべき返事が返ってきた。「とてもいいタイミングだった。このメールアドレスはあと数時間で使えなくなるところだったから」と。数週間前に仕事を辞めたので、職場のメールアドレスの使用期限がその日までだったのだという。漫画化の話がなかったら、ベネディクトにもジェイミーにも連絡していなかったと思う。二人とは、次に渡英するときには必ず会おうと約束している。これも漫画がつないでくれた不思議なご縁と言えるだろう。
自分の分身がここに
似顔絵を描いていただいたことは何度かあるが、自分が漫画になって動くというのは初めての経験。それも主人公なんて、漫画好きとしては本当に夢のようなできごとである。池辺先生が送ってくださったラフ画を見た時は、私を含め、すべてのキャラクターが本当に愛おしくて、心をぎゅっとつかまれた(シオダだけは別人すぎると申し上げてしまった。本人は、瘦せていて髪の毛ふさふさなので、このままでいいと言っていたが)。これはたくさんの思いのこもった漫画になっていくに違いない。そう思った。
ネーム、下絵と見せていただいたが、池辺先生の描かれたいものが少しずつカタチになっていくのがわかる。原作にはない魅力を先生が注ぎ込んでくださる過程を先んじて拝見できるなんて、こんなに幸せなことはない。予告用カットを見た時は、似顔絵が漫画になったと思った。魂が入ったというのだろうか。自分の分身が生まれた気がした。命を吹き込むとはこういうことなのかと、ぞくぞくした。池辺先生が生み出してくださった私の小さな分身が、漫画の中でどんな冒険を繰り広げてくれるのか、一読者として楽しみでならない。
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