「明るくていい子だね」ほめ言葉のつもりが犯罪者になる「きっかけ」に……『いい子に育てると犯罪者になります』(岡本茂樹)試し読み

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 意外なことに、刑務所への出入りを繰り返す累犯受刑者には「いい子」だった者が多い――。臨床教育学博士としての研究・教育活動の傍ら、刑務所での受刑者の更生支援にも携わってきた著者・岡本茂樹さんは、子どもの明るい笑顔の裏側に潜む問題を指摘します。

(『いい子に育てると犯罪者になります』からの抜粋です)

第1章 明るく笑う「いい子」がなぜ罪を犯すのか
苦しいからこそ笑っている

 あなたは、にこにこと明るく笑う子どもに声をかけるとしたら、何と言いますか。

 ほとんどの人は、「明るくていい子だね」と褒めるのではないでしょうか。このことに疑問を持つ人はいないでしょう。しかし「いい子だね」という、誰もが普通に使っている言葉が、子どもが犯罪者になる「きっかけ」になっている場合があるのです。分かりやすい例で説明します。

 二人のにこにこと明るく笑う子どもがいるとしましょう。共に一人っ子で、小学5年のA子とB子とします。二人とも学校で、にこにこと笑い明るく振る舞っています。しかし家庭環境は正反対です。A子の家庭は両親の仲がとても良く、A子にとって家庭はとても居心地のいい場所です。他方、B子の家庭は両親が不和で、いつも喧嘩が絶えません。B子は家のなかが暗いので、自分が一生懸命に明るく振る舞うことで家を明るい雰囲気にしようとします。しかし内心では「私が悪い子だから、お父さんとお母さんはいつも喧嘩ばかりするんだ」と自分を責めたり、「お父さんとお母さんがいなくなったらどうしよう」と悩んだりしています。B子は、本当はものすごく苦しいのです。苦しいのに「苦しい」と言えず、子どもながらに「私が家を明るくしよう」「お父さんとお母さんの仲が良くなれば、私は捨てられない」と思って、いつも笑顔を絶やさず明るく振る舞っているのです。

 にこにこと笑う明るい子どもを見ると、大人はその表面の姿を捉えて「いつもにこにこして、本当にいい子だね」と言って褒めます。しかしその褒め言葉は、A子とB子にはまったく違ったメッセージを与えることになります。A子には、とてもうれしい言葉となって、これからも彼女は自然とにこにこと笑う明るい女の子になるでしょう。A子は、本当にいい子なのです。

 一方、家庭の暗い雰囲気を明るくしようと無理をしているB子にとって、褒め言葉は「もっと自分の苦しい気持ちを抑圧して、笑顔を絶やさず、明るく振る舞いなさい」というメッセージを与えていることになります。B子は何の疑問も持たず、ますます抑圧を強めていきます。褒め言葉が抑圧を強化しているのです。

 そうすると、B子に残された道は二つしかありません。このまま「いい子」を続けるか、「いい子」であることに疲れてギブアップするか、のどちらかです。ギブアップの仕方はさまざまです。非行という形で表面化し、エスカレートすると犯罪者になるかもしれません。あるいは、不登校といった形で完全にエネルギーを失ってしまう場合もあります。「優等生の息切れタイプ」と言われる不登校のパターンです。不登校にならなくとも、思春期以降に問題が先送りされ、大変な生き辛さを抱かせることになるかもしれません。その最悪の結果は「自殺」です。

 上記に書いたことは極端に思われるかもしれません。しかし一時期、中学・高等学校の教育現場に身を置いたことのある私は、B子のような「いい子」が突然大きな問題行動を起こすケースを何度も目の当たりにしてきました。たとえば、中学校までとても明るかった生徒が、高校生になった途端、手のひらを返すように非行に走るのです。突然学校に来なくなったケースも少なくありません。問題行動はいつ起きるか分かりません。抑圧していた期間が長ければ長いほど、ストレスが大きければ大きいほど、問題行動の出方は激しいものになります。

 明るく素直だった子どもが突然、大きな問題行動を起こした場合、私たちは「いつも笑顔を絶やさなかったあの子がなぜ?」と思ってしまいますが、「自分の本当の気持ちをずっと言えず、ものすごい苦しみがあったのだ」と見方を変えなければなりません。

笑顔の裏側に隠された本当の気持ち

 にこにこと明るく笑っているからと言って、子どもが本当に楽しくて笑っているとはかぎりません。明るさを無理して見せている子どもがいるのです。無理して見せるには、その子どもを追い詰めている背景(とくに家庭環境)を考えないといけません。

 しかし親は子どもの「つくった笑顔」の理由になかなか気づけません。なぜなら、いつもいっしょにいるからです。したがって、周囲の大人や教師が気づいて声かけを変えないと、その子は無理して笑ったままです。

 子どもの家庭環境を理解していれば、周囲の大人の声かけは変わります。「明るくていい子だね」と言う代わりに、「何かしんどいことはない?」「放課後にいっしょに話でもしないか」といった言葉がけが、大げさではなく、その子どもの「命」を救うかもしれないのです。なぜなら、子どもが「本当はしんどくてたまらない……」と自分の本当の気持ちを言えるチャンスになるからです。

以上は本編の一部です。詳細・続きは書籍にて

岡本茂樹
(1958-2015)1958(昭和33)年兵庫県生まれ。元立命館大学産業社会学部教授。臨床教育学博士。大学での研究・教育活動の傍ら、刑務所での受刑者の更生支援にも携わる。著書に『反省させると犯罪者になります』『凶悪犯罪者こそ更生します』などがある。2015年没。

新潮社
2025年4月20日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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1896年(明治29年)創立。『斜陽』(太宰治)や『金閣寺』(三島由紀夫)、『さくらえび』(さくらももこ)、『1Q84』(村上春樹)、近年では『大家さんと僕』(矢部太郎)などのベストセラー作品を刊行している総合出版社。「新潮文庫の100冊」でお馴染みの新潮文庫や新潮新書、新潮クレスト・ブックス、とんぼの本などを刊行しているほか、「週刊新潮」「新潮」「芸術新潮」「nicola」「ニコ☆プチ」「ENGINE」などの雑誌も手掛けている。

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