九州が分からない……非行少年に日本地図を見せた時の“衝撃的すぎる”反応 『ケーキの切れない非行少年たち』(宮口幸治)試し読み

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 非行少年が“3等分”したケーキの図で衝撃を与え、累計170万部を突破した『ケーキの切れない非行少年たち』シリーズ。児童精神科医の著者が少年院に入所する少年との面談で「一番ショックを受けた」のは、彼らの凶暴さではなく、ある意外な傾向でした。高校生になっても簡単な漢字が読めない、地図がわからない、九九はおろか簡単な足し算すらできない……。

(『ケーキの切れない非行少年たち』からの抜粋です)

面接と検査から浮かび上がってきた実態

 医療少年院では、新しく入ってきた全ての少年に対して、毎回2時間ほどかけて面接を行っていました。通常、非行少年の面接となると、なぜ非行をやったのか、被害者に対してどう思っているかといったことをメインに聞くことが多いのですが、実はそういったことを聞いても更生にはあまり役に立たないことが分かってきました。少年院在院少年たちの幼少期からの調書を読んでみると、彼らは少年院に入るまでに、これでもか、これでもかというくらい非行を繰り返しています。少年院に赴任したての頃は、凶暴な連中ばかりでいきなり殴られるのではないか、といつも身構えていました。しかし、実際は人懐っこくて、どうしてこんな子が? と思える子もいました。

 しかし一番ショックだったのが、

・簡単な足し算や引き算ができない
・漢字が読めない
・簡単な図形を写せない
・短い文章すら復唱できない

 といった少年が大勢いたことでした。見る力、聞く力、見えないものを想像する力がとても弱く、そのせいで勉強が苦手というだけでなく、話を聞き間違えたり、周りの状況が読めなくて対人関係で失敗したり、イジメに遭ったりしていたのです。そして、それが非行の原因にもなっていることを知ったのです。

 その他、高校生なのに九九を知らない、不器用で力加減ができない、日本地図を出して「自分の住んでいたところはどこ?」と聞いても分からない、といったこともありました。北海道は大体みんな知っているのですが、九州を指さして「これは何?」と聞くと、「外国です。中国です」と答えた少年もいます。ひどくなると日本地図を見せても、「これは何の図形ですか? 見たことないです」という少年もいます。そんな彼らですから、「今の総理大臣は誰?」と聞いても、安倍総理の名前が出てくる少年は滅多にいません。しばらく考えて、「あ、先生、分かりました。オバマ(当時)です」と答えたりします。そのような彼らに“苦手なことは?”と聞いてみると、みんな口を揃えて「勉強」「人と話すこと」と答えました。

学校で気づかれない子どもたち

 では彼らは、いったい学校でどんな生活を送っていたのでしょうか。彼らの生育歴を調べてみると、大体、小学校2年生くらいから勉強についていけなくなり、友だちから馬鹿にされたり、イジメに遭ったり、先生からは不真面目だと思われたり、家庭内で虐待を受けていたりします。そして学校に行かなくなったり、暴力や万引きなど様々な問題行動を起こしたりし始めます。しかし、小学校では「厄介な子」として扱われるだけで、軽度知的障害や境界知能(明らかな知的障害ではないが状況によっては支援が必要)があったとしても、その障害に気づかれることは殆どありません。中学生になるともう手がつけられません。犯罪によって被害者を作り、逮捕され、少年鑑別所に入って、そこで初めて「障害があったのだ」と気づかれるのです。

 医療少年院では、彼らにこれまでの人生を表した“人生山あり谷ありマップ”を書いてもらっていました。縦軸の上方向によかったこと、下方向に悪かったことを書いてもらいます。横軸は時間です。ある少年は、小学校2~4年まで学校によく遅刻していて万引きまでしていたのですが、小学校5年になってとても熱心な先生に出会えて、“勉強が面白い”“学校が楽しい”と感じるまでになりました。万引きしていた子が学校が楽しい、勉強が楽しいと言い出したのです。きっと小学校5年時の担任の先生にとったらこの子はとても遣り甲斐のある子どもだったはずです。しかし、彼の人生は中学に入って急降下していきます。“学校に遅刻”“学校をさぼる”“悪いことをして逮捕される”などして、少年院に入ることになってしまいました。

 しかし、どうして中学校に入って急降下したのでしょうか? 実際に少年に聞いてみたところ、「中学に入ったら全く勉強が分からなくなった。でも誰も教えてくれなかった。勉強が分からないので学校が面白くなくなり、さぼるようになった。それから悪いことをし始めた」と答えました。

 つまりこの少年の場合、中学校で先生が障害に気づいてくれて、熱心に勉強への指導をしてくれていたら非行化しなかったでしょうし、被害者も生まれなかったのです。非行化を防ぐためにも、勉強への支援がとても大切だと感じたケースでした。

 非行は突然降ってきません。生まれてから現在の非行まで、全て繋がっています。もちろん多くの支援者がさまざまな場面で関わってきた例もあります。でもその支援がうまくいかず、どうにも手に負えなくなった子どもたちが、最終的に行き着くところが少年院だったのです。子どもが少年院に行くということはある意味、“教育の敗北”でもあるのです。

以上は本編の一部です。詳細・続きは書籍にて

宮口幸治
立命館大学教授・児童精神科医。一般社団法人・日本COG-TR学会代表理事。京都大学工学部卒業、建設コンサルタント会社勤務の後、神戸大学医学部医学科卒業。児童精神科医として精神科病院や医療少年院に勤務。2016年より現職。医学博士、臨床心理士。困っている子どもたちの支援を教育・医療・心理・福祉の観点で行う「日本COG-TR学会」を主宰し、全国で教員等向けに研修を行っている。主な著書に『ケーキの切れない非行少年たち』『どうしても頑張れない人たち』『ドキュメント小説 ケーキの切れない非行少年たちのカルテ』『歪んだ幸せを求める人たち ケーキの切れない非行少年たち3』(いずれも新潮社)、『境界知能とグレーゾーンの子どもたち』(扶桑社)、『医者が考案したコグトレパズル』(SBクリエイティブ)など計80冊。

新潮社
2025年4月21日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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1896年(明治29年)創立。『斜陽』(太宰治)や『金閣寺』(三島由紀夫)、『さくらえび』(さくらももこ)、『1Q84』(村上春樹)、近年では『大家さんと僕』(矢部太郎)などのベストセラー作品を刊行している総合出版社。「新潮文庫の100冊」でお馴染みの新潮文庫や新潮新書、新潮クレスト・ブックス、とんぼの本などを刊行しているほか、「週刊新潮」「新潮」「芸術新潮」「nicola」「ニコ☆プチ」「ENGINE」などの雑誌も手掛けている。

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