ネット依存の女子大生に「スマホ断ち」を勧めてみたら意外な反応が 依存症医学の第一人者が教える「退屈」の効用 『ドーパミン中毒』(アンナ・レンブケ)試し読み

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 いつもネットで何かを見たり聴いたりしていないと落ち着かない……そんな現代人は珍しくありません。その原因となっているのが「脳内快楽物質」ドーパミンです。

 ドーパミンの作用によって、人はさまざまなものにハマり、やがて抜け出せなくなってしまいます。そこから人生が破滅してしまうことも――。

 スタンフォード大学医学部教授で、かつて自身も依存症を経験した第一人者が脳科学の面から「どうしたらやめられるか」を説く、『ドーパミン中毒』から一部を抜粋してお伝えします。

退屈することの必要性──ソフィーのケース

 苦痛からの逃避は、見てきたような極端な例だけではない。私たちはほんのわずかな不快に耐える能力すら失いつつある。皆がいつも「今ここ」から自分の気持ちを逸らしてくれるもの、楽しませてくれるものを探し求めている。

 オルダス・ハクスレーが『すばらしい新世界──再考』でこう言っている。「マス・コミュニケーション産業の発展は真でも偽でもなく非現実的なもの、本質的でないものを気にかけることによって主に起きてきた……人間の気晴らしに対する無限というべき欲求を考慮に入れてこなかった」

 同じようなこととして、1980年代の古典的作品『愉しみながら死んでいく』の著者ニール・ポストマンはこう書いている。「アメリカ人はもはや互いに話をするのではなく、互いを楽しませている。アイディアを交換するのではなく、イメージを交換する。お互いの主張について議論を交わすのではなく、いいルックスや有名人やコマーシャルについて議論する」

 私の患者のソフィーはスタンフォード大学の韓国からの留学生で、うつと不安があり、助けを求めてやって来た。たくさんの話をしたのだが、その中で彼女は起きている間は大体、ある種のデバイスにつながれていると言った。インスタグラム、YouTube、ポッドキャストなどを開き、お気に入りの人たちを見て/聞いて過ごしている。

 セッション中、私は彼女に講義に向かうとき、そうしたお気に入りを流すのではなく、浮かんでくるままに自分の思考を流すのがいいのではないかとウォーキングを勧めた。

 彼女は信じられない、とむしろ恐怖の表情を浮かべた。

「なんでそんなことをしなきゃいけないんですか?」と口をぽかんと開けたまま私を見た。

「そうですね……」私は思い切って言ってみた。「自分自身に慣れるためです。自分の感じていることを展開させるんですね。コントロールしたり逃げようとしたりしない方がいいかもしれない。デバイスを使って気を紛らわそうとしていることこそが、あなたのうつや不安を作っているかもしれないから。四六時中、自分自身を避けているのはとても疲れるんじゃないですか。自分自身を別の方法で体験したら、新しい考え方や感じ方ができるようになるかもしれない。そうすれば、自分自身や他者や世界ともっとつながっている感覚が持てるのではないかと思うんです」

 彼女は一瞬考えてみて言った。「でもそれって、すっごく退屈なのでは」

「そうです。それは正しいですね」。私は言った。「退屈は、ただつまらないだけじゃないですよね。すごく怖いことでもあるかもしれない。退屈すると、人生の意味や目的という大きな問題に直面することになりますから。だけど退屈は、新しい発見や発明をする機会にもなります。新しい考えに必要なスペースを与えてくれるんです。それがないと私たちはずっと周囲の刺激に反応し続けなくてはならなくなる。自分自身が感じたことを、味わうことができなくなってしまいますよね」

 次の週、ソフィーは講義に行く時、何とも接続することなく歩くという実験をした。

「最初は難しかったんですけど」と彼女は言った。「だんだん慣れてきて、むしろ好きになったかもしれないです。木なんかにもよく気づくようになっちゃいました」

以上は本編の一部です。詳細・続きは書籍にて

アンナ・レンブケ
1967年アリゾナ州生れ。精神科医。医学博士。スタンフォード大学医学部教授。同大学依存症医学部門メディカル・ディレクター。イエール大学を卒業後、スタンフォード大学で医学を修める。依存症医学の第一人者であり、前著Drug Dealer, MDが話題に。論文、受賞歴多数。

恩蔵絢子
1979(昭和54)年神奈川県生れ。脳科学者。東京工業大学大学院総合理工学研究科知能システム科学専攻博士課程を修了、学術博士。2022年5月現在、金城学院大学・早稲田大学・日本女子大学で、非常勤講師を務める。著書に『脳科学者の母が、認知症になる』、訳書に『生きがい』(茂木健一郎著)、『顔の科学』(ジョナサン・コール著、茂木健一郎監訳)がある。

アンナ・レンブケ(著)/恩蔵絢子(訳)

新潮社
2025年4月21日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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1896年(明治29年)創立。『斜陽』(太宰治)や『金閣寺』(三島由紀夫)、『さくらえび』(さくらももこ)、『1Q84』(村上春樹)、近年では『大家さんと僕』(矢部太郎)などのベストセラー作品を刊行している総合出版社。「新潮文庫の100冊」でお馴染みの新潮文庫や新潮新書、新潮クレスト・ブックス、とんぼの本などを刊行しているほか、「週刊新潮」「新潮」「芸術新潮」「nicola」「ニコ☆プチ」「ENGINE」などの雑誌も手掛けている。

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