社内不倫でクビになる? 労働法の専門家が裁判例から解説 『どこまでやったらクビになるか―サラリーマンのための労働法入門―』(大内伸哉)試し読み

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 横領や暴行がアウトなのは当たり前。では、転勤拒否は? ブログは? 不倫は??

 法のルールを知れば、社内の不条理の正し方も、我が身の守り方も見えてくる!

 サラリーマンにとって身近な疑問を、実際の裁判例を参照しつつ、法律の観点から検証した『どこまでやったらクビになるか』より、一部を抜粋してお伝えします。

3講 社内不倫しています。これを理由にクビになる可能性はありますか?
甘美な罠

 毎年4月、初々しい新入社員が入社してきます。たぶん男性社員は、何気ない風を装いながら、新しく入ってきた女性社員の品定めをしていることでしょう。女性社員とて同じこと。素知らぬ顔をしながら、しっかり職場での「Tサミット」(トイレで女性が男性の品定めをすること)をしているかもしれません。「職場は働く場所なのに不謹慎な」等と言うなかれ。職場は仕事をする場所であるだけでなく、男女の出会いの場所でもあるのです。かつては結婚といえば見合いか職縁結婚が普通だったのですから。

 男性上司の中には、何かのきっかけに若い女性社員と不倫関係に陥るかも、なんていう妄想にふけっている人もいるかもしれません。妻子のある四十男のA夫もそんな一人。昨年課長に昇進したばかりの働き盛り。そんなA夫の前に突然現れたのが、4月に入社してきたばかりのB子。昔あこがれていた女性によく似ていた彼女がA夫の部署に研修のためにやってきます。20年前なら声もかけられなかったような美貌の持ち主が相手でも、今のA夫には「仕事を教える」という大義名分と課長という肩書きがあります。B子に上司として仕事を指導するA夫は、若い女性の甘酸っぱい匂いにクラクラとしながらも、上司としての威厳と冷静さを保とうとします。そんな彼に、若い男にはない大人の魅力を感じてしまったB子。研修の打上げの席で隣になったA夫に、ほろ酔い気分のなかで口説かれて……。ここから先は渡辺淳一の世界です。

会社は不倫社員を処分できるか?

 社内の不倫は、本人たちは隠しているようでも、意外に早くバレてしまいます。女性は、同性が特定の男性に送る視線や態度から勘づいてしまうことが多いようです。

 しかし、不倫はどこがいけなくて、どうして隠さなければならないのでしょうか。

 日本では、不倫は刑法上の犯罪とはなりませんが、民法上の不法行為に該当する可能性はあります。民法上の不法行為となるということは、加害者とされるほうが被害者に損害賠償を支払わなければならないということです。夫婦は互いに貞操を守る義務があります。要するに、配偶者以外の人との性的な関係をもってはならない、ということです。不貞行為は、民法において離婚理由の一つにもあげられていますし(770条1項1号)、離婚にまで至らなくても、自分の配偶者が不貞行為をした場合には、その配偶者と不貞の相手方に対して損害賠償を請求することができるのです。

 しかし、これは不倫をしているカップルと配偶者との間の問題です。不倫に会社が介入して何らかの処分をすることができるかどうかは別の問題です。法は、不倫に対して会社が処分をすべきかどうかについて何も定めてはいません。たとえば既婚の男性社員が未婚女性と性的な関係を結ぶことがあっても、それが淫行にあたらないかぎり、そのことだけを理由に処分するのは普通の業種・職種であれば難しいでしょう。

不倫が問われた裁判例

 では、不倫相手が同じ会社の社員であった場合は、どうでしょうか。こうなると、少し状況は変わってきます。この点で参考となる裁判例があります。

 従業員10名程度の有限会社で働いている既婚のC夫と独身のD子。D子は離婚後この会社で働くようになり、C夫と出会って不倫関係に陥りました。二人の関係は従業員や取引先にも知られるようになります。そこで会社の代表者Eは、C夫にD子との交際を断つように忠告し、C夫とD子双方に、「プライベートなことには干渉できないが、交際は止めた方がよい」と言いました。しかし二人は交際を止めなかったため、社内外から非難の声があがるようになり、ついにEはD子に対して退職を求めました。D子がこれに応じなかったため、会社は「素行不良」により「職場の風紀・秩序を乱した」という懲戒事由に該当するとして彼女を解雇しました。

 D子は、この解雇は無効であるとして、裁判所に訴えを提起しました。裁判所は結論として、この解雇は無効であると判断しました。

 裁判所ではまず、「D子が妻子あるC夫と男女関係を含む恋愛関係を継続することは、特段の事情のない限りその妻に対する不法行為となる上、社会的に非難される余地のある行為である」と述べます。したがって、こうした行為は、この会社の就業規則における懲戒事由にある「素行不良」に該当するとします。しかし、「職場の風紀・秩序を乱した」とは、企業運営に具体的な影響を与えるものに限られるのであり、このケースでは、D子とC夫の地位、職務内容、交際の態様、会社の規模、業態等に照らしても、二人の交際が会社の運営に具体的な影響を与えたとは判断できない、としました。

 会社によって就業規則の規定内容はいろいろですが、この事件の会社のように「職場の風紀・秩序を乱したこと」を懲戒事由として定めているところは多いと思います。この判決によると、社内の不倫は確かにこのような就業規則の規定に形式的にはひっかるものの、そうだとしても実際に懲戒処分を発動するには、「企業運営に具体的な支障をもたらす」という事情がなければならないのです。

どんな社内不倫なら処分されるのか?

 では、どういう場合であれば、処分の対象となるのでしょうか。

 たとえば、部長がその秘書を無理矢理愛人にしていたというような公私混同のケースでは、処分の対象となる可能性が高いでしょう。恋愛に現(うつつ)を抜かし、仕事にまったく身が入らなくなったような社員も処分の対象となる可能性があります(こうした恋愛呆けが起こるのは不倫の場合にかぎりませんが、社内不倫のときには、処分がより重くなる可能性があります)。性的な潔癖さを求める主婦層が主たる顧客層の会社において、社内不倫の噂が出て営業に重大な支障が生じたというようなとき、あるいは自分の夫を寝取られた妻が会社に乗り込んできて職場が大混乱になったというようなときも、処分の対象となったり、不倫の当人たちが配置転換になったりするでしょう。男性上司との不倫に悩む若い女性社員が精神面で異常をきたしてしまったときには、会社は男性上司にけじめをつけさせる意味でも、何らかの処分をすることがあるでしょう。

以上は本編の一部です。詳細・続きは書籍にて

大内伸哉
1963(昭和38)年神戸市生まれ。東京大学法学部卒、同大学院法学政治学研究科博士課程修了。神戸大学大学院法学研究科教授。法学博士。労働法を専攻。著書に『労働条件変更法理の再構成』『イタリアの労働と法』『労働法実務講義』『雇用社会の25の疑問』ほか多数。

新潮社
2025年4月25日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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株式会社新潮社のご案内

1896年(明治29年)創立。『斜陽』(太宰治)や『金閣寺』(三島由紀夫)、『さくらえび』(さくらももこ)、『1Q84』(村上春樹)、近年では『大家さんと僕』(矢部太郎)などのベストセラー作品を刊行している総合出版社。「新潮文庫の100冊」でお馴染みの新潮文庫や新潮新書、新潮クレスト・ブックス、とんぼの本などを刊行しているほか、「週刊新潮」「新潮」「芸術新潮」「nicola」「ニコ☆プチ」「ENGINE」などの雑誌も手掛けている。

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