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- マイ仏教
- 価格:946円(税込)
「マイブーム」「ゆるキャラ」などの生みの親として知られる、イラストレーターのみうらじゅんさんにかかれば、仏教入門もここまでわかりやすく、面白いものになります。
人生は苦。世の中は諸行無常。でも、「そこがいいんじゃない!」と唱えれば、きっと明るい未来が見えてくる。少年時代にとあるきっかけから仏教にハマったという著者による、M・J(みうらじゅん)流仏教入門。
(『マイ仏教』からの抜粋です)
「機嫌」の由来は仏教から
「機嫌」という言葉があります。
「機嫌を取る」「機嫌をうかがう」「機嫌を直す」。あるいは、「ご機嫌よう」「ご機嫌いかがですか」といったように、相手の様子をたずねる挨拶としても使われます。
「機嫌」という言葉自体は、「人の気持ちや気分。時機。都合」という意味があると辞書にはあります。
この言葉がもともと仏教用語だったことをご存知の方は、さほど多くないでしょう。
しかし仏教における「機嫌」は、言葉の意味がだいぶ違ってくるようです。
「人々がそしりきらい、不愉快に思うこと」
もともとは「譏嫌」と書くようで、「譏(そし)り嫌うこと」ですから、かなりネガティブな意味だったようです。
その由縁は、修行に励むお坊さんたちが、世間から「譏り嫌わ」れないように、「譏嫌戒」という戒律を設けたところにあるようです。「暴飲暴食をしない」など、世間様からお布施をいただくことで修行ができていることを、お坊さんたちが忘れないように厳しい戒律をつくったのです。それを破り、世間様の顰蹙を買えば、修行生活を営むことはできないからです。
この「譏嫌」が、やがて「機嫌」と記されるようになり、「人の気持ちや気分」という意味に転用されていったようです。
機嫌ブーム
最近、この「機嫌を取る」ということの重要性についてよく考えます。
「人のご機嫌を取る」ということは、ご機嫌にいいことではないかと思うのです。
「人のご機嫌を取る」というと、「あいつは人の顔色ばかりをうかがっている」と、悪い意味にとらえられることもあります。しかし、家庭でも恋愛でも、人間関係が上手くいっていないときというのは、得てして相手の機嫌を取ることを怠っているときです。
「相手のことを思って行動する」のは、人間関係の基本です。相手の機嫌をちゃんと取って、「ご機嫌」になってもらえば、回り回ってこちらの「機嫌」も良くなります。「機嫌を取る」ブームが起きれば、世の中少しはマシになるのではないでしょうか。
人の機嫌を取っているだけだと、「あいつは調子がいい」などと言われがちですが、人の機嫌を気にして生きていくことが、そんなに悪いことだとは思えません。
「ご機嫌を取る」と似たような言葉に、「相手の身になって考える」というのがあります。しかし「相手の身」というものが本当はどういうものかわかるはずもありません。あくまでこれは「自分の考える相手の身」です。しかし「ご機嫌を取る」であれば、これは「相手の身」にならなくてもできるはずです。
なかなかそう上手くいかないのが人間ですが、それも「修行」だとあきらめて、人の機嫌を取ろうではありませんか。
例えば「家のゴミを出してきて」と妻に頼まれた場合。「そうすれば妻が喜ぶのだから、ご機嫌を取るためにやろう」と思うか、「何で俺がゴミを出さなきゃいけないんだ」と思うか。
そもそも「機嫌を取る修行」を普段からしていれば、口ごたえもしないだろうし、妻に言われる前からゴミを出しているかもしれません。
人にご馳走するのも、機嫌を取る修行のひとつでしょう。恋愛にしても、女の子の機嫌を何とか取ろうと努力することであり、育児というものは、子どもの機嫌を取ることです。
いずれの場合も、トラブルが起きるのは、相手の機嫌を取ることを怠ったときばかりです。
お坊さんにしてもそうでしょう。檀家さんの機嫌を伺い、機嫌を取っていかなければ、お布施をするだけの檀家さんも気分が悪いし、「お坊さんは葬式のときだけいればいい」なんて陰口を叩かれてしまうのです。
ただ、「ご機嫌を取る」のが、ひとりだけの修行だと結構辛いものがあります。自分だけが、人に奢り、人の話に耳を傾け、ゴミを出すばかりでは、どうしても「何で俺だけ」という禁句が出てしまいがちです。
ですから、「ご機嫌を取る」には、「コール・アンド・レスポンス」がもっとも重要になってきます。
それにしてもなぜ世の中では、「あいつはご機嫌取り」なんて、悪い意味で使われるようになってしまったのでしょうか。まさか「譏り嫌うこと」という語源となった仏教用語のネガティブな意味を、みなさんが知っていたとは思えませんし、そこまで仏教の影響があったとも考えにくいところです。
「ご機嫌取り」と言えば、「誰にでも良い顔をする奴」と、どこかバカにされている感じが否めません。しかしよく考えれば、人より気が利くということですから、悪いことではないはずです。
かつては「男は黙ってサッポロビール」。三船敏郎が出演したコマーシャルのように、他にも「不器用ですから」の高倉健のように、自分から機嫌を取りにいかない方が格好良い、とされる時代がありました。それを世の男性は憧れ真似するようになって、進んで「ご機嫌を取る」ことを考えなくなってしまったのではないでしょうか。
しかしそれは、それなりのルックスや力量が伴わなければ成立しません。誰もが真似できるわけではないのです。
飲み屋でもよく「家に帰ると、女房の機嫌が悪くてさあ」という発言が聞こえてきますが、その理由ははっきりしています。日ごろ、その人が奥さんの機嫌を取っていないからです。そう発言した人間が当事者なのは明白なのに、「機嫌が悪くてさあ」と言うとき、どこか他人事で無責任な感じが付きまといます。つまり責任はすべて相手にある、という態度です。
そのようなとき一番いけないのは、「何でこの俺がそんなことしなきゃいけないんだ」というものです。
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