「人を“見た目”で判断するな」をうのみにするのは危ない!「9割本」元祖、『人は見た目が9割』が説いていたこと

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「人を見た目で判断してはいけない」子どもの頃から幾度となく聞いたその言葉。しかし、アメリカの心理学者の研究では、“見た目”は膨大な情報を伝えるという結果が出ています。

 その事実を認めず、「見た目で判断しない」となるのは危険ではないか、という話から「9割本」の元祖、『人は見た目が9割』は始まります。ここでの「見た目」とは何なのか?

(『人は見た目が9割』からの抜粋です)

 ***

 私たちの周りでは、よく次のような光景が見られる。

 待ち合わせに遅れてきた女が男にこういう。「ごめん。怒ってる?」

 男は「怒った」といいながら目が笑っている。こういう場合は、怒っていない。

 逆に「怒っていない」といいながら、目が怒っている場合がある。こちらの場合は怒っている。

 目は口よりも雄弁に語っている。

 語るのは、目だけではない。態度も同じだ。

 頬杖をついている男がいる。隣にいる女が「真面目に聞いているの?」と訊く。男は「ああ、聞いているよ」と答える。実際は聞いていない。心ここにあらずである。

 こういう場面に遭遇すると、言葉はまったく当てにならない、と私たちは思う。

言葉は七%しか伝えない

 私たちの周りにあふれていることば以外の膨大な情報――。それを研究しているのが、心理学の「ノンバーバル・コミュニケーション」と呼ばれる領域である。最近は、言葉よりも、言葉以外の要素の方がより多くの情報を伝達していることが分かってきた。アメリカの心理学者アルバート・マレービアン博士は人が他人から受けとる情報の割合について次のような研究成果を発表している。

 ○見た目・身だしなみ、仕草・表情 五五%
 ○声の質(高低)、大きさ、テンポ 三八%
 ○話す言葉の内容 七%

 話す言葉の内容は七%に過ぎない。殆どは、見た目・身だしなみ、仕草・表情、声の質、大きさ、テンポで決まっているのである。

 ついついコミュニケーションの「主役」は言葉だと思われがちだが、それは大間違いである。実に九割以上が、見た目その他だということが分かっている。多くの人が実は「人を見かけで判断」しているのだ。

 にもかかわらず、学校教育では「言葉」だけが、「伝達」の手段として教えられる。だから七%を「全体」と勘違いしている人が生まれる。たとえば、「本をたくさん読む人」が「たくさん勉強している人」という錯覚が生まれる。「本をたくさん読む人」が必ずしも「情報をたくさん摂取している人」ではないのである。

 私たちは「本をたくさん読む人」の中に、人望もなく、仕事もできず、社会の仕組みが全く理解できていないと思える人がたくさんいることを知っている。

 七%の情報の中で生きている、あるいは、自分が重視していない九三%と、自分が愛する七%との関連付けが行われないまま、「世渡り」をしているとおぼしき人である。

 そういう人と接すると「言葉が地に着いていない」あるいは「言葉が宙に浮いている」と感じる。表現を変えれば、確かに理屈は正しいのだが、理屈しか正しくない人たち――。私たちは、そういう人の意見を聞くと、こんな反応をしたくなる。

「あなたの言うことの意味は分かるけど、あなたに言われたくない」

 言葉主体の「コミュニケーション教育」の申し子たちは、七%を見て九三%を見ない(そういう人も「木を見て森を見ず」という言葉はしっている)。

 とはいいつつ、九三%がいかに大切かを説いている私も、分が悪いのを実感せざるを得ない。何しろ、書物は「言葉」で書かなければならないのだから。

 教育の陥穽(かんせい)という観点から、一つ補足する。私たちは、子供の頃小学校の先生に「人を外見で判断してはいけない」と教えられた。それは「人は外見で判断するもの」だから、そういう教育が必要だったのだ。

 逆にいうなら、「人を外見だけで判断しても、基本的には問題ない。ごくまれに、例外があるのみである」といってもよい。

以上は本編の一部です。詳細・続きは書籍にて

竹内一郎
1956(昭和31)年福岡県久留米市生まれ。劇作家・演出家。横浜国大卒。さいふうめい名義で漫画『哲也 雀聖と呼ばれた男』の原案を担当。演劇集団ワンダーランド代表。著書に『手塚治虫=ストーリーマンガの起源』(サントリー学芸賞)、『人は見た目が9割』など。

新潮社
2025年4月27日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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