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- 皇室とメディア
- 価格:2,090円(税込)
昭和から平成に代替わりする際は「自粛ムード」、平成から令和に代替わりするときは「お祭りムード」、さらにやたらと持ち上げる時もあれば、一転してバッシングに……このように極端に揺れ動く皇室報道は、いったいどのようなメカニズムで決まっているのでしょうか。
象徴天皇制について研究する名古屋大学大学院の河西秀哉准教授は、皇室報道を「権威」「象徴」「消費」という3つのキーワードで分析している。河西さんの新刊『皇室とメディア――「権威」と「消費」をめぐる一五〇年史』(新潮選書)の「はじめに」から一部を抜粋・編集し、試し読みとして公開します。
平成から令和へ
2019(平成31)年4月30日夜の八時ごろ、私は東京・渋谷のNHKから六本木のテレビ朝日へ向かうため、タクシーに乗っていた。途中、渋谷駅前のスクランブル交差点を通過したとき、いつもの夜以上に多くの人々がいるのに気がついた。なぜそのような状況になっていたのだろうか。それは、この日が平成の最後の日だったからである。
私がこの日に東京にいたのも、平成から令和へのいわゆる「代替わり」を伝えるテレビ番組に出演するためであった。平成最後の日であった4月30日、各局はそのための番組を様々に編成していた。通常のニュースが延長されたり、バラエティ色の強い特別番組が作られたりするなかで、平成という時代を回顧したり、平成の天皇・皇后のあゆみを紹介したりしていた。そして、平成が終わるまさにその瞬間に向けて、テレビではカウントダウンが行われた。元号が変わる前後の時間の各地の様子が中継され、渋谷の交差点もまさにその対象の一つとなっていた。そこに集まっていた人々は、私が先ほど見たときよりももっと多くなっており、まるで年末から新年にかけてのようなお祭り騒ぎであった。この「お祭り」に参加するために、何時間も前から渋谷の交差点に多くの人々が詰めかけていたのである。
しかし、元号が変わるときにこうしたある種のイベントのような騒ぎが展開されたのは、近現代日本史上、初めてであった。近現代において元号が変わったのは、天皇が死去したときのみだったからである。それぞれの天皇の病気の様子はメディアを通じて伝えられたが、人の死である以上、ある程度の覚悟や予想はしていても、いつ何時(なんどき)そうなるのかはわからない。そして、天皇の死を以て起こる「代替わり」や元号の交代をカウントダウンするようなことは「不謹慎」に当たる。それゆえ、これまでにこうした現象は見られなかった。
平成から令和への「代替わり」は、2016年8月8日に天皇が退位の意向を強くにじませた「象徴としてのお務めについての天皇陛下のおことば」をテレビなどのメディアを通じて発表し、それを受けて政府が「天皇の公務の負担軽減等に関する有識者会議」を開催、その後に「天皇の退位等に関する皇室典範特例法」が成立したことで、平成の天皇が日本近現代史上初めて「生前退位」することによって行われたものである。政府が政令によって、退位を4月30日と設定し、令和という元号も4月1日に前もって発表されており、平成最後の日が人々に印象づけられていた。
メディアも元号制定に関するプロセスや令和という文言に関するエピソード、平成という時代や天皇・皇后のあゆみを段階を踏んで何度も報道し、一つの時代の区切りと新しい時代への期待感を盛りあげようとしていた。だからこそ、人々はこの「代替わり」に熱狂したと推測できる。繰り返される報道によって平成の終焉という感情が増幅し、人々は新しい時代への期待感をふくらませた結果、わざわざ渋谷などへ集まったのではないか。政治家や経済人、文化人などが平成を振り返る企画に登場するとともに、私を含めた研究者がメディアで平成の皇室に関する総括を展開したことも、時代の変化を印象づけたと思われる。天皇や元号が変わることを、一つの時代の変化と同義で見ること、私たちはそうした感覚をどこかで内面化していたようにも思える。それは、繰り返すが、「代替わり」をめぐるメディアの報道によって具体化した。平成から令和への「代替わり」は、そうした状況のなかで展開されたのではないか。
河西秀哉
1977年、愛知県生まれ。名古屋大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(歴史学)。名古屋大学大学院人文学研究科准教授。著書に『「象徴天皇」の戦後史』(講談社選書メチエ)、『皇居の近現代史 開かれた皇室像の誕生』(吉川弘文館)、『近代天皇制から象徴天皇制へ 「象徴」への道程』(吉田書店)など。編著に『戦後史のなかの象徴天皇制』(吉田書店)、『平成の天皇制とは何か 制度と個人のはざまで』(共編、岩波書店)、『昭和天皇拝謁記 初代宮内庁長官田島道治の記録』(共編、岩波書店)など。
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2025年3月3日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです
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