ゼレンスキー大統領(左)とトランプ大統領(右)
稀に見る珍しい展開となったアメリカとウクライナの首脳会談。「ウクライナが戦争を始めた」「ゼレンスキー大統領の支持率は4%」等々、トランプ米大統領の発言にはこの数週間でも、ロシアのプロパガンダを鵜呑みにしたものが目立っていたが、今回は同席したバンス副大統領から、ウクライナのプロパガンダにまつわる発言が飛び出している。
「一度、ウクライナに実際に来てほしい」、と言うゼレンスキー大統領に対してバンス副大統領は、
「あなたが訪問者をプロパガンダ・ツアーに連れて行っていることは承知している」
と返したのだ。バンス副大統領は「たとえウクライナを訪問しても、案内される場所は、そちらの政治宣伝に都合の良い場所にすぎないのではないか」という意見を述べているわけで、かなりキツい物言いなのは間違いない。
このような事例から「プロパガンダ」という言葉から多くの人が連想するのは、政府、政治家などが自分にとって都合の良い主張、思想、データを示す行為である。
が、実はもとを辿ると「プロパガンダ」の元祖は宗教だった。キリスト教を布教するにあたって意識的にプロパガンダを有効活用していたのである。
よくプロパガンダの「成功者」として、アドルフ・ヒトラーやナチスの事例が挙げられるが、それよりもはるか前、大成功した人物がいる。世界史で必ず名前を学ぶ超有名人である。この人物のある種の「スクープ」が世界を変えたのだ。
一体誰か。スクープの中身とは何だったのか。
プロパガンダの起源、手口、最前線まで網羅的に解説した『プロパガンダの見抜き方』(烏賀陽弘道・著)から、「そもそもどのようにプロパガンダは始まったのか」を見てみよう。(以下、同書をもとに再構成しました)
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- プロパガンダの見抜き方
- 価格:1,056円(税込)
カトリックの教えを広めよ
プロパガンダ(Propaganda)という言葉はもともとはキリスト教、特にカトリック側の言葉だ。宗教改革が勃発した約100年後、旧教側=ローマ教会が新教徒に対抗してカトリックの教えを布教しようと正式の省庁を作った。その名前が「布教聖省(ラテン語:Sacra Congregatio de Propaganda Fide)」だった。1622年、作ったのはローマ教皇グレゴリウス15世である。
本来、“Propagare”はラテン語で「繁殖させる」「増やす」「伝える」「普及させる」という意味だ。Sacra Congregatio de Propaganda Fideを日本語に訳すると「信仰を広めるためのローマ教会の聖なる省庁」になる。1627年には伝道師の養成学校「プロパガンダ大学」が創設される。
この名称はそれから350年以上、1967年まで使われ続け、現在も「福音宣教省」(Congregatio pro Gentium Evangelizatione)と名前を変えて存続している。2022年6月には、教皇自らがトップを務める筆頭省(それまでは教理省)に昇格した。つまりプロパガンダはローマ教皇庁の中でも依然、最重要の部門なのだ。
1517年、マルチン・ルターがドイツで宗教改革の火蓋を切って以後、ヨーロッパではドイツ、オランダ、ポーランドなどで新教徒が急増した。
ローマ教会に「プロパガンダ聖庁」が設置されるまで、新教に対抗したカトリック組織は「イエズス会」だった。ポーランドや南ドイツ、オーストリアなどの新教徒をカトリックに回帰させたのはイエズス会の影響である。遠い日本にキリスト教を伝えた(1549年)のも、イエズス会のフランシスコ・ザビエルである。
ここまででおわかりのように「プロパガンダ」という言葉は本来、「福音」を広める「布教」「宣教」「伝道」という意味のラテン語だった。
「福音」とは「良い知らせ」=「人間の神に対する原罪は、救い主イエスの犠牲によって許された」という意味だ。それを知らない人に伝え広める行為が「伝道」である。ゆえにキリスト教文化圏では「プロパガンダ」は「『これは素晴らしいものですよ』と勧めること」という語感を持つ。そこに「宗教」「政治」「経済」の区別はない。「政府や企業の宣伝」というネガティブな語感が付いたのは20世紀に入ってからのことだ。
もともとキリスト教には新旧教問わず「福音を広めることはクリスチャンの義務」という考え方がある。
キリスト教は開祖イエス自身の言葉にならい「私の教えをみんなに口コミしてね」「いい話だから人に勧めて回ってね」と教義を経典(聖書)に定めているのだ。つまりキリスト教は出自から「口コミ宗教」である。
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