
早稲田大学大隈記念講堂
受験シーズンも終わりを迎え、4月からの新生活に心を躍らせている学生やご家族も多いことだろう。志望校に合格できた場合もそうでなかった場合も、これから何を学んでいくかが重要であり、どのランクの、偏差値の、知名度の学校に通うかは大きな問題ではない……と言いたいところだが、日本社会を覆いつくす「学歴コンプレックス」(いわゆる「学歴コンプ」)を前に、聞こえのいい台詞ばかり吐いていられないのである。
なぜ、学歴コンプレックスが生まれたのだろうか? このコンプレックスが生じる構造について、早稲田大の名物教授で上皇陛下のはとこにあたる故・筑波常治(ひさはる)氏が、自身の出身である東北大の学生らを例にとり、鋭い分析を披露していた。
『「反・東大」の思想史』(尾原宏之・著、新潮選書)より、抜粋して紹介しよう(以下、同書の一部をもとに再構成しました)。
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東北大の学生による「4つの東大コンプレックス解消法」
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- 「反・東大」の思想史
- 価格:1,980円(税込)
戦前の学校体系は複線的で、人材育成目的も就学期間もまちまちだったが、戦後は6-3-3-えの単線的進学ルートに統一された。誰でも大学まで進めるようになった一方、学校を横に並べて比較することも容易になった。
のちに早稲田大学政治経済学部の名物教員となる科学史家の筑波常治(ひさはる)は、新制東北大学の農学部に入学したが、同級生たちの東大コンプレックスに「唖然となった」という。筑波自身は、東大と地方旧帝大の差は月にたとえると「十五夜と十三夜」程度だと考えていた。だが、どうも周囲は「太陽と三日月」だと思っているようなのである。
筑波が観察した東北大生の東大コンプレックス解消法は4つある。
第1は、開きなおって東北大の優秀さをひたすら強調することである。だが、これには「たえず誇大宣伝をやっているという後めたさ」がつきまとう。
第2は、東北大卒でも努力次第では東大卒を凌駕できると自分にいい聞かせ、東北大出身の成功者を思い浮かべることである。たとえば東北大出身で東大教授やがて総長となる茅誠司など。このやり方だと、やはり東北大は東大に比べて人材が少ないという結論に終わる。
第3は、京大以下の地方帝大、一橋、早慶など比較対象になりうる大学の欠点をあげつらい、優位を誇ることである。だが、この種の大学に見出される欠点は東北大にも共通することが多く、結果としてヤブヘビになる、という。
第4が、東北大よりはっきり「劣っている」と思われる大学を相手に優越感を振り回すことである。その対象に選ばれがちなのがいわゆる「駅弁大学」であった。「東大その他のまえに、はっきりカブトをぬぎ、それによっておこる劣等感を、田舎の新制大学その他にたいする優越感でおぎなって、感情のバランスをとる」(『破約の時代』筑波常治)。
自分より上の大学には羨望を、下の大学には軽蔑の念を…
東北大の教授、学生、出身者にはこの第4のパターンが多かったというのが筑波の観察である。
筑波もそういうように、この思考法は東大を頂点とし地方新制大学や短大を底辺とする序列構造を生み、自分より上の大学には羨望を、下の大学には軽蔑の念を抱く心理状態を連鎖させる。大学序列の底まで行き着くと、その歪んだ感情は高卒者に向けられることになる。新制大学の成立によって誰でも大学に進学しやすくなる一方、各大学間に抗うことが困難な序列が形成され、可視化されることにもなった。
1970年、OECD(経済協力開発機構)は日本に教育調査団を派遣した。元駐日米国大使のエドウィン・ライシャワー、日本研究者のロナルド・ドーア、元仏首相エドガー・フォールら錚々たる調査団員の大きな関心の一つは、頂点の東大(と京大)から末端の私大にいたる「社会的評価によるきびしい上下の序列」 であり、「18歳のある1日に、どのような成績をとるかによって、彼の残りの人生は決ってしまう」大学受験の過酷さにあった(OECD教育調査団編著『日本の教育政策』深代惇郎訳)。
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学歴社会の頂点に君臨する東大だが、入学できるのはごく僅か。それ以外の大多数のうち、劣等感を抱いた者が、更に“劣っている者”を見下すことで、自身の感情に折り合いをつける……。その行きつく先が、OECDの教育調査団も関心を寄せた序列社会であり、“学歴コンプ”うずまく現代の日本社会なのだろう。
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