「40年間、悩み続けていた」遅咲きの絵本作家・ヨシタケシンスケが「一度は断った」展覧会で語った本音

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『あつかったら ぬげばいい』の一場面を体感できるつり輪に掴まるヨシタケシンスケさん(C)Shinsuke Yoshitake

『りんごかもしれない』『もう ぬげない』などのヒット作で知られる絵本作家・ヨシタケシンスケさん。東京では、3年ぶりになる展覧会「ヨシタケシンスケ展かもしれない」が開催中だ。絵本作品の原画をはじめ、ラフ画や日々のできごとを綴ったアイデアメモ、さらに体を動かして楽しめる体験型の展示も設けられている。

 随所にヨシタケさんのこだわりが詰まった個展だが、3月19日に行われたトークセッションでは、当初「展覧会はできません」と自ら断っていたというエピソードが語られた。

 開催に後ろ向きだったヨシタケさんが、なぜ展覧会を開くことにしたのか。また、絵本や展示作品にどんな想いを込めているのだろうか。ヨシタケさんのトークセッションからお伝えする。

(※以下、2025年3月19日にCREATIVE MUSEUM TOKYOで行われたヨシタケシンスケさんのトークセッションをまとめたものです)

「そんな、展覧会なんてできません」

 日本各地を巡回し、のべ70万人以上を動員している人気展がスタートしたきっかけは、2020年に展覧会の依頼を受けたことだという。しかし、そのときヨシタケさんは「展覧会はできません」と断ったそうだ。

「僕の絵はすごく小さいんですよね。それに原画に色がついてないんですよね。普通、絵本の展覧会というと原画が飾ってあって『本物の原画はこんなに大きな絵なんだ』とか『印刷に載らない美しい色なんだ』ということを見せるのですが、僕の場合『こんなにちっちゃいんだ』『色もついてないんだ』。それに全部並べても場所が余っちゃうということで、『そんな、展覧会なんてできませんよ』って言ったんです」

 そんなヨシタケさんが開催を決断したのは「僕にしかできないことを探っていく中で、絵本ができるまでに、僕の頭の中で何が起きていたのかを展示したらどうだろう」という発想が思い浮かんだからだという。

「メイキングみたいな展覧会にしたらどうだろうか。こういうことを考えて、こういう理由でボツになって、あの絵本になりました。そういう一つの本ができるまでに頭の中で巡らせていた思考や僕がどれだけ気を散らしながら仕事をしていたのかということを見ていただけるような空間になればいいなと思って作りました」

 そんなアイデアから生まれたヨシタケシンスケ展は、2022年に東京・世田谷文学館で幕を開け、全国14カ所を巡ってきた。4年目を迎える本展には、特別な想いもある。

「この凱旋展はこれまでで一番広い会場となるんですが、3年前に世田谷文学館でスタートした時っていうのはまだコロナの最中だったんですね。感染予防のために、手を触れる展示はダメとか、完全予約制とかけっこう制約が多かったんです。その形でスタートしていく中で、今回東京に戻ってきたときには制約もなくなり、もともと僕がやりたかったことを存分に実現することができたので、そういう意味でやっと完成したという想いです」

 そうした想いの中で実現したのがヨシタケさんの世界観を楽しみながらも、メッセージ性が伝わる体験型のコンテンツ。絵本『あつかったら ぬげばいい』の「おとなでいるのにつかれたら あしのうらをじめんからはなせばいい」という一場面を体感できる「つり輪の森」や自分が書いた絵を誰にも見せずにシュレッダーにかけて自分だけの秘密を持って帰る「あなただけのヒミツをつくろう!」だ。


蛇口から飲み物を注げるドリンクバー(C)Shinsuke Yoshitake

 また、“ファミリーレストラン”がテーマのカフェ「ヨシタケ飲食店かもしれない」の実現も大きな魅力となっている。「いつか明太子クリームパスタになりたいパスタ」や「グラタン~おでんかもしれない~」などのフードメニューを試食したヨシタケさんは、

「食べ物の見た目は変なのですが、味はすごく美味しかったので安心して飲み食いしていただければと思います。あとドリンクバーがあるんですけど、学校の蛇口みたいな形になっていて混ぜ放題なんです」

 と、いたずらっぽく笑う一幕もあった。

ヨシタケシンスケ(絵本作家)
1973年神奈川県生まれ。筑波大学大学院芸術研究科総合造形コース修了。2013年に初の絵本『りんごかもしれない』を出版。本作は第6回MOE絵本屋さん大賞第1位、第61回産経児童出版文化賞美術賞、第8回「(池田晶子記念)わたくし、つまりNobody賞」を受賞。その後発表した『りゆうがあります』で第8回MOE絵本屋さん大賞第1位、『もうぬげない』で第9回MOE絵本屋さん大賞第1位、ボローニャ・ラガッツィ賞特別賞を受賞している。日常のさりげないひとコマを独特の角度で切り取ったスケッチ集や、児童書の挿絵、装画、イラストエッセイなども発表しており、『あるかしら書店』『ヨチヨチ父』『思わず考えちゃう』『欲が出ました』などがある。

Book Bang編集部
2025年3月28日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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