【産経Books】『「大和」特攻を率いた提督』井川聡著

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■エリート軍人の内面

先の大戦終盤の昭和20年3月、日本軍は戦局挽回に向け、沖縄付近の米軍艦隊に軍用機を体当たりさせる特攻作戦に踏み切った。4月には世界最大・最強とうたわれた戦艦「大和」も投入し水上特攻作戦を決行。同7日、出撃した「大和」は多数の魚雷と爆弾攻撃により沈没した。

本書は、水上特攻作戦を指揮し、「大和」とともに最期を遂げた海軍大将・伊藤整一の評伝である。著者は、那覇支局長や社会部長などを歴任した元新聞記者。

「大和」特攻については、制空・制海権を喪失した中で行われた「愚行」との評価も少なくない。著者も「世界の海戦史上、最も不合理で無意味な作戦」とし、伊藤を「悲劇の人物」と記す。しかし、著者の関心はむしろ伊藤の内面に向かう。

戦争遂行の責任を担う軍令部の次長という要職を務めるなど海軍のエリートコースを歩み、用兵にも精通した俊英がなぜ、不合理な「大和」特攻を受け入れたのか。

その結論の適否については読者の判断に委ねたい。一方で、「大和」は当時の国民の間でどういう存在だったのか、その沈没は何を意味したのか、本書は政治的存在としての「大和」を考える上で多様な視点を提供してくれる。(潮書房光人新社・3520円)

産経新聞
2025年3月29日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

産経新聞社

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