「ADHD」で学校や社会に適応できなくても「馬鹿で無価値」なんかじゃない…精神科医が語る“多動脳の強み”とは

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アンデシュ・ハンセン氏

 忘れ物をする癖が直らない。仕事などでケアレスミスが多い。気が散りやすく、集中できない。家事をいつまでも先延ばしにしてしまう……。

 これらは、ADHD(注意欠如・多動症)に当てはまる特徴だ。国立精神・神経医療研究センターによると、日本の学童期の子どもで3~7%、成人で2.5%の人が該当するという。さらに、ADHDに該当する人は日常生活で困難に直面することが多く、子どもも大人も、うつ病、双極性障害、不安症などの精神疾患を伴っていることもあるそうだ。

 この問題に向き合い、最新の知見からADHDの“強み”を発信するのが、精神科医のアンデシュ・ハンセン氏だ。世界的なベストセラー『スマホ脳』や『メンタル脳』でスマホやSNSが脳に及ぼす影響を伝えてきたハンセン氏が、最新作『多動脳』で選んだテーマはADHDだった。

 なぜハンセン氏は、ADHDに向き合おうと思ったのか。そこには、苦しむ患者の声を聞いてきた医師としての経験があったという。学校や社会に適応できず、自分を「馬鹿で無価値な存在」だと感じてしまう人たちへ、ハンセン氏が伝えたいメッセージとは。以下、『多動脳』より一部を抜粋・再構成してお伝えする。

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学校や社会に適応できなくても「馬鹿で無価値」だと思わないでほしい


 発達障害の一種である注意欠如・多動症(ADHD)は現実に存在する。誰かがでっちあげた診断などではない──みなさんに一番覚えておいてほしいのはそこだ。ADHDは先天的な精神的特徴が組み合わさった結果であり、基本的に脳のつくりからきている。性格の傾向が実は人類の歴史上大きな〈強み〉で、今私たちが存在していられるのもADHDの人たちのおかげだ。人間がアフリカを離れ、地球を丸ごと植民地化できたのだってそうだ。しかしADHDの〈強み〉は過去の栄光にすぎないわけではない。今でもなのだ。

 かといって問題を軽んじるつもりはない。ADHDは無視できないレベルの問題につながることもあり、楽々と生きられるわけではないのだから。精神科医として多くの患者を診てきた上でまずはその点を強調しておきたい。

 様々な精神状態から生じる「問題」に対処していくこと──それが精神科医の仕事だ。ではなぜあえて「ADHDの〈強み〉」を語りたいのかというと、人生における最初の15~20年というのはその後の人生の基盤となる大切な時期で、特に自己のイメージ形成に大きく関わるからだ。ADHDだとその時期になかなかスムーズに社会に適応できず、特に学校では苦労が絶えない。そのせいでネガティブな影響を受けてしまうこともある。

 学校は人生で初めて他人と比べられる場だ。そこでうまくいかないと、自分は馬鹿で無価値な存在だと感じてしまう。自信を失い、その後もずっと人生に影を落とす──精神科医としてそんな例を嫌というほど見てきたので、どうにかしてそのパターンを変えたいと思っている。

 ADHDの〈強み〉を活用するには努力も必要になる。そのためにはまず知識を身につけること。ポジティブな面もあることを知り、そこを意識的に強化していくようにする。世間でもよく知られるようになったADHDという状態の一面を取り上げ、活用の仕方さえわかれば〈強み〉になることを説明していきたい。

アンデシュ・ハンセン(Anders Hansen)
1974年スウェーデン生まれ。精神科医。ストックホルム商科大学で経営学修士(MBA)を取得後、ノーベル賞選定で知られる名門カロリンスカ医科大学に入学。現在は王家が名誉院長を務めるストックホルムのソフィアヘメット病院に勤務しながら執筆活動を行い、その傍ら有名テレビ番組でナビゲーターを務めるなど精力的にメディア活動を続ける。『一流の頭脳』は人口1000万人のスウェーデンで60万部が売れ、『スマホ脳』はその後世界的ベストセラーに。『最強脳』『ストレス脳』『メンタル脳』など日本での著作は累計120万部を突破している。

Book Bang編集部
2025年4月18日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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