「ストーカーの思考」典型的3つのステップとは 専門家が語る「加害者を思いとどまらせるために知っておきたいこと」 【本で知る問題の本質】

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※画像はイメージです

 川崎市の住宅で20歳の女性の遺体が見つかった事件では、死体遺棄の疑いで逮捕された容疑者(27)が、元交際相手である女性にストーカー行為を繰り返していたとされている。

 警察が必ずしも頼りになるとは限らない――これはこの種の事件で何度も示された厳然たる事実である。

 ストーカーによる犯罪、迷惑行為に被害者側はどう向き合えばいいのか。

 長年、この問題に取り組んできたカウンセラーの小早川明子氏(NPOヒューマニティ)は、これまでに1500件を超えるストーカー案件と関わってきた。その中で、ストーカー問題の真の解決のためには加害者との対話も必要だと実感し、500人を超えるストーカーたちと会ってその心理を分析してきたという。

 加害行為を止めさせるため、加害者の「動機」を理解しようと努めてきた小早川氏は、ストーカーには、典型的な“3つの感情”のステップがあると語る。彼、彼女らが過激な行動に至るまでの心理とは? 小早川氏の著書『「ストーカー」は何を考えているか』をもとに、見てみよう(以下、同書をもとに再構成しました。数字は同書刊行時点のものです)

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ストーカーの思考パターン

 ストーカーによる凶悪な事件がたびたび報じられます。果てに殺人まで犯す人間とはいったい何者なのか、得体のしれない不安を覚える人は多いでしょう。

 近年、メールはもとよりSNSやLINEなどコミュニケーションの爆発的増加によって、人間関係や距離感の取り方が根本から変わりつつあります。膨大な情報のやりとりの裏で、会ったこともない相手からのバーチャルなストーキングも広がっています。

 2000年にストーカー規制法が施行されて以来、警察によるストーカーの認知件数は年々増え続け、今や年間2万件(1日に約57件)を超えます。

 私は1999年からストーキング被害からの救出活動を始め、カウンセラーとして、これまで1500を超える案件と関わってきました。

 ストーキングは、自分の正当性、特定の相手に対する強烈な思いと怨念にも似た感情──そこにはセクハラやパワハラにはない、加害者の特徴があります。

(1)確固たる心理的動機があり、正当性を妄想的に信じ込んでいる。

(2)相手を一方的に追いつめ、迷惑をかけて苦しめていることを自覚しながらも、相手に好意を持たれる望みをかけている。

(3)その望みが絶たれた時、心のバランスは憎しみに反転し、自殺または相手を殺害することもある。

 ストーキング事案の当事者たちはしばしば加害・被害意識が曖昧で、特に加害者は歯止めなく(1)~(3)の階段を駆け上がりやすいのです。

 私のところに相談に来るのは、多くが被害者(と呼ばれる側)ですが、相談があれば大抵は加害者(と呼ばれる側)にも連絡を入れます。すると、実に8割の確率で会うことができます。加害者が、私という被害者側の人間と会おうとするのは、彼(彼女)らの多くが生きることもままならない苦痛を抱き、救いを求めているからです。

 加害者一人ひとりは特有の心理を持っていて、常識では取るに足らないことにひどくプライドが傷つく。その異様な精神状態は本人以外には想像ができず、被害者は何が加害者の逆鱗(げきりん)に触れたのかも分からずに苦しむ。被害者が救われるには、とにかく加害者に加害行為を止めてもらうしかありません。

小早川明子(コバヤカワ・アキコ)
1959(昭和34)年生まれ。中央大学文学部卒。ストーカー問題をはじめDVなど、あらゆるハラスメント相談に対処するNPO法人「ヒューマニティ」理事長。1999年に活動を始めて以来、500人以上のストーキング加害者と向き合い、カウンセリングなどを行っている。

新潮社
2025年5月15日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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1896年(明治29年)創立。『斜陽』(太宰治)や『金閣寺』(三島由紀夫)、『さくらえび』(さくらももこ)、『1Q84』(村上春樹)、近年では『大家さんと僕』(矢部太郎)などのベストセラー作品を刊行している総合出版社。「新潮文庫の100冊」でお馴染みの新潮文庫や新潮新書、新潮クレスト・ブックス、とんぼの本などを刊行しているほか、「週刊新潮」「新潮」「芸術新潮」「nicola」「ニコ☆プチ」「ENGINE」などの雑誌も手掛けている。

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