「お風呂に入らず、勉強もしません」不登校の子どもの親から相談 専門家が答えた“やってはいけないこと”

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画像:PhotoAC

中学生や高校生にとって、5月から6月は新生活の緊張や変化による疲れが出やすい時期です。

実際、「5月病」という言葉が広く知られているように、進学や進級といった環境の変化を機に無理が重なった結果、学校に行けなくなったり、登校を渋るようになったりする子どもは少なくありません。

30年以上の高校教員経験を持ち、自身の2人の子どもも不登校を経験した不登校専門家・野々はなこ氏は、著書『誰にも頼れない 不登校の子の親のための本』の中でこう述べています。

「思春期(中高生)の不登校は、小学生の不登校とは全く違います。小学生の頃とは違って、思春期の子どもは繊細な感情を抱きます。不登校の子の場合は親子関係が希薄になって、全く口を利かなくなるケースも少なくありません」

「学校に行けなくても、せめて勉強だけは続けてほしい」と願う保護者の気持ちは自然なものです。しかし野々氏は、「子どもの目線から不登校を理解することで、子どもに共感できる親へとまずは近づくことが、現状をよくするために必要」だと語ります。

とはいえ、「共感しよう」と決意するのは簡単でも、「学校に行ってほしい、勉強してほしい」という親の本音との葛藤の中で、なかなか心を開かない我が子に根気強く寄り添い続けるのは容易ではありません。

この記事では、子どもの心と体の状態を理解し、前向きに関わっていくために知っておきたい心構えと知識を、保護者の立場から丁寧にお伝えします。

(以下、野々はなこ著『誰にも頼れない 不登校の子の親のための本』より抜粋編集)

 ***

不登校になると何をするのも億劫になります。

「子どもが歯磨きをせず、お風呂にも入りません。大丈夫でしょうか?」

こんな相談を保護者からよくお聞きします。

大人には不可解な行動に見え、このままではだらけて自堕落な人間になってしまうのではないかという気持ちになってしまいます。

私は次のように答えています。

「不登校の子どもは皆さん、そうなんですよ。それが普通です」

不登校の程度には軽いものから重たいものまでさまざまですが、不登校になってからも歯をちゃんと磨いてお風呂にも入るという子は、軽症なケースです。

不登校を失敗と感じて、生きる気力がなくなるほど落ち込んだ子どもは身だしなみにまで気が回りません。

逆にいうと、身だしなみに気を使う気力も残っていないほど、打ちひしがれているという証拠なのです。

ここでもし親が、「歯を磨きなさい。虫歯になるよ」「何日お風呂に入っていないの? 不潔だよ」という言葉をかけたら、子どもに大きなストレスを与えます。

表面的なことだけに目を向けて注意していては、不登校の本質は理解できません。

親には子どもの「つらい気持ちをわかってほしい」という思いを受け止めてもらいたいです。

心配しなくても、家で休息していれば徐々に気力が回復して、歯を磨いたり、お風呂に入り始めるタイミングが必ず訪れます。

言い換えれば、「不登校らしい道のり」を辿っているだけですから、その意味では安心してもいいぐらいです。

私の子ども2人も、不登校のときには入浴せず、歯も磨きませんでした。

元気になったら、身だしなみをちゃんとするのはわかっていましたので、特に気にかけませんでした。

皆さんのなかには健康面に悪い影響が出ると思われる人がいらっしゃるかもしれませんが、お風呂に入らなくても危機的な病気にかかることはないでしょうし、虫歯になっても歯医者に行けば済むことです。

それよりも大事なのは、子どもの心に耳を傾けることです。

私が主宰している「不登校回復講座」に通う受講生の保護者にも、「気にしなくてもいい」とアドバイスしています。

むしろ、中学生、高校生にもなって親から「歯を磨きなさい」と言われることのほうが子どもにとってはストレスです。

不登校の子どもが勉強しないのはなぜ?

身だしなみの次に相談される質問です。

「うちの子ども、全く勉強しません。どうしたらいいでしょうか」

私の答えは、こうです。

「それはそうです。だって、お風呂に入らないくらいですから、勉強するはずもありません」

子どもは生きているだけで精一杯の状態です。

生きる気力がなくなっているのに、勉強なんてするはずがありません。

勉強に気が向くには順番があります。まずはグラグラになった精神状態を立て直して土台を作ることからスタートです。

土台がしっかりできたら、やっと勉強へ意識が向きます。

皆さんは「マズローの欲求5段階説」について聞いたことがあるでしょうか。

野々はなこ(不登校専門家/ウェルビーイング教育コーチ)
大阪府生まれ。大学を卒業後、高校教師を務めて30年以上。担任、保健室担当、特別支援教育コーディネーターとして不登校、発達障害やメンタル不全の生徒たちと長年関わってきた経験を持つ。プライベートでは子ども2人が不登校になったが、心理学や脳科学、栄養学などを学び、それらを子どもの教育に取り入れたことで2人とも大学進学するまで回復させることに成功。不登校の子を持つ母親としての経験と、教育のプロとしての経験をノウハウ化した「不登校回復講座」は口コミで話題となり、全国各地から受講者が訪れる。不登校で悩む保護者を応援するために改善の秘訣を発信しているブロガーであるほか、ウェルビーイング教育の普及活動も行っている。

あさ出版
2025年6月2日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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