猛禽類のようなポーズから軽やかなステップで近づいてきた変な男・カルタくんの謎すぎる求愛行動を描く 『ググってカルタ君』試し読み

試し読み

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クセ強すぎな男・カルタくんの、謎すぎる“求愛”が始まった。

ファー付きのダウンにギラギラのスーツ、とんがり靴。
会社に着ていくにはカジュアルすぎるどころか、常識が吹き飛ぶレベルの出で立ちで、電車の中に突如あらわれた“カルタくん”。

ただの偶然かと思いきや、彼はなぜかこちらにグイグイ絡んでくる。
断っても、逃げても、まったくめげない。
……なのに、気づけば彼が気になって仕方がない!?

『ググってカルタ君』は、どこかにいそうでどこにもいなそうな“カルタくん”との奇妙で予測不能な出会いを描く、不条理だけどクセになる物語。

本作は、デジタル時代の小説表現を切り拓く「デジタルノベルコンテスト」(主催:株式会社コルク)にて受賞し、電子書籍として刊行された6作品のひとつです。

今回は、その冒頭部分を特別にご紹介します。

 ***

 社畜の夜は遅い。
 久しぶりに早く帰れた日、九時の電車に乗り込んだ私は上機嫌故に窓の外ではなく、車内の方を向くような形でしばらく開くことのないドアの前に立っていた。
 途中の連絡駅から、これまたご機嫌な男が乗ってきて、私と同じように車内に体を向けて立つ。
 降車駅が近付いてきた私は、ドアの真ん中に門番のように立ちはだかる目の前の男をどう回避すべきか思案していた。男のファッションは独特で、会社には着ていくにはあまりにカジュアルダウンしたファー付きダウンに、悪い意味で金融関係の方が着ていそうな高そうなギラギラしたスーツと先のとんがった攻撃的な靴を組み合わせるという大変主張の激しいものだった。人の見た目をどうこう言うつもりはないが、関わったら厄介そうな人だという感想くらいは許してほしい。
 幸いにも降車駅では、横幅のあるオバさんがドス目論見ドスとかなりの迫力で迫ったのを、ご機嫌な男がするりと進行方向と逆の手すり側に避けたことで、人が通れるくらいのスペースが確保された。その恩恵にあやかって私はすんなり降りることができた。
『オバさんグッジョブ!』
 なんて呟きながら階段をルンルンで駆け降りて、昼の会食で食べ損ねたジャンクフードを晩ごはんにしようと目論見ながら改札を出た。
 さて、右(マック)かな?左(モス)かな?と、息巻いて迷っていたところ……。

「すみません」
 後ろから声をかけられた。
 その頃、私は取引先の試作品のパスケースを使っていた為、たまに定期を落とすことがあった。
 また落としたのかもしれない。
「はい。なんでしょうか?」
 なるべく愛想良くにこやかに振り向くと、ミュージカルに出てくるよう気障な男のようなえらく気取った男が斜め45度に顔を傾けてポーズを取っていた。
 街中で突然ポージングする一般人なんて見たことがなかったので、こんな変な男が世の中に存在するんだ……と、ただただ驚愕した。
 驚いた顔を確認すると、男の顔はパァッと輝いた。一般人にドッキリを仕掛ける系の配信者とかだろうか……。
 彼は、顎に手を当てると、ますます顎を突き出してキメキメのキメ顔を作って言った。

「さっき、僕のことを見てましたよね?」
「は……?いや、見てませんけど。」

 一瞬で被っていた猫に逃げられ、しらっとした表情になってしまった私に対して、変な男は明らかに落胆しながらも、引くに引けなくなったのかこちらをじっと見据えて捕獲対象を見つけた猛禽類のようなポーズを取るのだった。
「いーや、間違いなく見てました。見てましたよね?」
 変な男が踊るように軽やかなステップで一歩一歩近付いて来る。尖った靴が刺さりそうだし、機嫌を損ねてこれで蹴られたら痛そうだ。顔は真剣そのものかに見えたが口元だけ微妙に微笑んでいるし、腕を片方だけ少し開いて微妙に親指と中指が交差しているのが気にもなった。その内、指とか鳴らしそう。
 一挙一動、芝居がかっていて傍から見たら面白そうだが、私にとってはホラーだった。
「記憶になくて申し訳ないですけど、いつのことですか?」
「電車の中で、ですよ?僕が乗車した時からずっと熱い視線を送ってくれてたじゃないですか?」
 ターンでもしそうな身振りにも負けない癖のあるアクセントに私はブハッと噴き出しながら乗車中のことを思い出していた。
 言われてみれば、目の前の男は、最近あまり見ないとんがった靴を履いているではないか。高そうな金融業者っぽいスーツに大学生が好みそうなファーのダウンを合わせてしまうチグハグさも確かに見覚えがあった。

「あー、電車の!」
 彼は、数駅前から乗り込んできたあのご機嫌男らしい。邪魔だなぁ……と、動線の確保を検討していただけで、顔までは確認しなかったのですっかり失念していたが、このチグハグさは間違いなさそうだった。

「そうです!そうです!僕の事、見てたでしょ?!」
「ええ、見てましたよ。あの時の方でしたか。」
「よかった、勘違いだったら恥ずかしい思いをするところだった。」
 遠巻きに若者から笑われながら写真を撮られているのに気付いていないことに同情しながら自分の顔が写りこまないように角度をそっとずらす。

「ははは。そうですか。ところで何の御用ですか?」
 派出所の方へ。ゆっくり、ゆっくり、自然に近付いていくが、ご機嫌男は気付かないらしく、これまたゆっくりと着いてくる。
「どうして見てたんです?」
『ガン飛ばしてきやがったな』なんて絡んでくるのは福岡の親富孝通りにたむろしている学生くらいかと思っていたが、東京の閑静な住宅街、もとい通勤電車にもいるらしい。しかし、東京の輩というのは、随分と上品かつコミカルな絡み方をしてくるんだなと感心した。
「フフフ、恥ずかしいですか?当てましょうか……?」
「ははは……」
 派出所の近くに辿り着き、気が大きくなっていたこともあり、私はわりと大きめの声でご機嫌男子の言葉に被せに行った。

「ズバリ!僕のファンだから!……或いは単純に一目惚れ?運命をビビビと感じちゃったとか!」
「ドアのど真ん中に立ってるから!ホント、邪魔でした!」
「えっ!?」

 ほぼ同じタイミングで吐き出した言葉にご機嫌男子は目を大きく見開いて、それから砂にでもなったのかと心配になるくらい血色を失って一気に勢いをなくした。

「どうしました?」
 座り込んでしまったご機嫌男子を見下ろすと、首を振って居直りまたポーズを決め始めた。
「すみません、取り乱してしまいました。」
 まだ取り繕うなんて鋼のメンタルだなと感心していると彼はキメ顔でいろいろとポーズを取っていた。後ろでスマホを向けている若者たちのカメラにはいろんなポーズを取るご機嫌男子の写真が収められていることだろう。

「僕、競技カルタでは結構有名人なんで、もしかしたらファンの子かなと思いましてね。(キリッ」
「はぁ、ファンサですか。大変ですね。」
「そうなんですよ。僕くらいの有名人になると特集が組まれたりとかしてテレビにもチラッと映ったりして全国的にも顔が知られてるんでー……(チラッ」
「知らないですね。」
「ちはやふるとか流行ってるでしょ??(ぱちくり」
「いや、知らないですね。」
「カルタ興味ない!?」
「まぁ、ないですね。」
 面倒くさい男だったが、危害を加えてくることはなさそうだったので、歩きながら撒こうと思い、銀行のある大通りを歩き出した。
 さらば、モスバーガー。そしてマクドナルド。あとで行けたら行くからね。
 さて、このあたりは道が複雑なので、少し横道に逸れると地元の人くらいしか着いてこれないらしい。雲南チキンライスの店の横をするりと入り、バルや喫茶店のある細い通りを目指す。横道に逸れて隠れた後、別の通りから出れば撒けると思った。というか、本気で撒くつもりだった。
 ……だが、ご機嫌男子は先回りしていた。
「またお会いしましたね!」
「え、どうしてここに?」
 この人は撒かれ慣れているのだろうか。それともプロの付き纏いとか?唖然とする私ににっこりと微笑みかけてご機嫌男子は言った。

「あ、僕の実家、こっちなんです。」
「は……?」

(以上は本編の一部です。詳細・続きは書籍にて)

鳩院ジュノ
デジタル時代における小説の可能性を追求する文芸賞「デジタルノベルコンテストvol.1」を受賞し、デビュー。

鳩院ジュノ/(C)Juno Hatoin/ Cork

CORK
2025年5月31日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

CORK

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