K-POPって結局なんなの?音楽評論家が解き明かす“欲望”の正体とは『K-POPを読む』

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世界中で大人気のK-POP。でも、よく考えると「K-POPって何?」と聞かれると、意外と答えに迷うかもしれません。ジャンル? 国名? それともアイドルのこと?
 
実はK-POPは、単なる音楽の枠に収まりきらない、もっと広くて深い“現象”です。音楽だけでなく、パフォーマンス、ファッション、そしてグローバル戦略までを含んだ、ひとつのカルチャーとも言えます。
 
本稿は、日本でも翻訳され大きな話題を呼んだ『BTSを読む』(柏書房)の著者である音楽評論家・キム・ヨンデ氏の最新作『K-POPを読む』(&books/辰巳出版)から抜粋。BTSやIU、BLACKPINKなど、K-POPを見つめる中で心に残ったアーティスト10組を通して、K-POPの誕生と進化の過程、そしてその言葉に込められた“グローバル化”の欲望までをたどりながら、K-POPという現象の本質に迫ります。
※本稿は『K-POPを読む』(&books/辰巳出版)を一部抜粋・編集したものです。

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K-POPという名称はどこから来たのか?

K-POPという用語あるいは概念はわかりにくく、定義するのが難しい。理由はあまりにもシンプルだ。そもそもK-POPという単語は特別な意味を持っていないのだ。任意に作られた名称にすぎず、K-POPが指す意味や範囲は明確ではない。定義がはっきりしないがゆえにさまざまに解釈され、それによって(しばしば無駄な)論争も避けられない。ここでもっとも重要なのは、K-POPという言葉の適用や解釈には、その単語を使う人々の欲望が映し出されているという点だ。

同様に、K-POPという用語の起源も定かでない。ひとつ確かなのは、1990年代末から2000年代初めにかけて、誰かがこの単語をたいした理由もなしに使い始めたということだ。いろいろな説がある中で比較的説得力が高いのは、CNNをはじめとする外国メディアが広く使い始めたという主張だ。韓国の大衆音楽が外国メディアを通じて本格的に知られ始めたのは 1990年代半ば以降で、当時J-POPにすでに親しんでいた欧米のメディアが自然にK-POPという言葉を使うようになったと見られる。もちろん、それ以前にも韓国ポピュラー音楽に関する報道や学術研究は存在したが、「K-POP」が用いられた例はない。2000年代初めには、韓国の英字新聞や英語で書かれた 政府の広報用資料などで「K-POP」が登場するようになった。 これは、K-POPという新語が外国人に歌謡について教えるための手段として使用されていたことをしめしている。

1990 年代に韓国のポピュラー音楽が世界に知られるようになったのには、いくつかの背景がある。サウンドが現代的に変わり始めたのは、1988年に開催されたソウルオリンピックの後だ。この時期、米軍基地の近くに位置した梨泰院のダンスクラブと新興の江南のナイトクラブなどを中心に、若者が好きなブラックミュージックとブレイクダンスをベースとしたダンスミュージックが新しいカルチャーとして急浮上した。ポピュラー音楽のプロデューサーたちが、ダンスが得意な歌手を次々と発掘して育て、1990年代初めのニューキッズ・オン・ザ・ ブロック旋風以降、本格的な「アイドルグループ」育成に乗り出すようになる。こうして生まれたダンスミュージックブームは、アジアの若い世代から熱い支持を受けてダンスグループの CLON、NRG、H.O.T.、S.E.S.の海外進出へとつながった。韓国の音楽に特に関心をしめさなかった外国のメディアが、新しいダンスミュージックと新世代のミュージシャンに注目したのもこの時期だ。つまり、外国メディアが初めて目にした韓国のポピュラー音楽といえば、すべて「ポスト・ソテジワアイドゥルスタイル」、つまりダンスを踊る歌手やグループ、R&B やヒップホップスタイルの曲だったのは、当然の流れといえる。

K-POPという言葉に込められた“グローバル化”という欲望

ここで「K-POP」の概念に乖離が生じる。K-POPは、「韓国のポピュラー音楽(Korean popular music)」の略にすぎない。 しかし上記のような事情によって、K-POPはその言葉が生まれた当初から、インディー・ロックやヒップホップを含む韓国ポピュラー音楽全般ではなく、ダンスミュージックをはじめとする当時のメジャーなポピュラー音楽、特に海外に知られている一部のアーティストを指すことになった。K-POPの「POP」が、 ポピュラー音楽という広義の意味よりはジャンルとしての 「POP」という狭義で認識される傾向があるのは、こうした歴史的背景のためだ。そしてK-POPは、1990年代半ば以降勢いを増したソロのダンス歌手やアイドルグループを指す言葉として定着する。このような面K-POPは、同じように国名をイニシャルで表したJ-POPと似ている一方で、国名を打ち出しているが特定の音楽ジャンルをしめすBritpopとは異なる。いずれにせよ、1990年代末から2000年代初めに生まれた K-POPの概念は現在も変わらず、韓国のポピュラー音楽のなかでもアイドルやパフォーマンス中心のダンスミュージック、R&Bやバラードなど、一部のメジャーシーンの音楽にたいしてのみ使われる傾向が強い。

K-POPという用語の本質には、韓国ポピュラー音楽の「輸出」 または「海外進出」、さらには「グローバル化」という欲望が込められている。韓国人同士では自分の国のことをあえて「コリア」と英語で呼ぶ必要はないのと同様に、音楽も国内のリスナー向けであれば、K-POPという他者化した名称をつける必要はなかったはずだ。韓国の大衆音楽は長い間「流行歌」と呼ばれてきたが、これは英語の「ポピュラーミュージック」という単語の語源と一致する。さらに広く長く使われてきた言葉としては、「歌謡」が挙げられる。「歌を謡う」という濃い意味をもつこの単語は、大衆音楽を演奏よりも「歌唱」として理解し聴く韓国の特徴を表している。そして1990年代以降は、「大衆音楽」という単語が幅広く使用されるようになった。「大衆音楽」 は、「流行歌」や「歌謡」には盛り込めない複雑かつ微妙なニュ アンスを含むと同時に、1980年代までの大衆音楽がたんなる庶民の退廃的な娯楽と見なされてきたことへの反発を込めた言葉でもある。とどのつまり、これらの用語とK-POPの違いは、「グローバリズム」にたいする意味を内包するか否かにすぎない。だが、これはもっとも決定的な違いでもある。

「K-POP」という言葉はいつか消える?世界化がもたらす新たな段階

K-POPをはっきりと定義することは可能なのか。不可能とは言えないが、簡単ではないだろう。明確な根拠や対象を設定して生まれた言葉ではなく、その上、意味と適用範囲がたえず変化しているからだ。わたしが2000年代半ばにアメリカに渡った時、外国の人々にとってK-POPとはアイドル音楽そのものだった。インディー・ロックやヒップホップはもちろん、メジャーシーンのR&Bアーティストたちの音楽も、K-POPの枠には含まないケースも多かった。「K-POP=アイドル」という公式を意識したためか、K-POPアーティストと呼ばれるのを嫌う人も少なからず存在し、ポピュラー音楽以外のジャンルに属する在米韓国人ミュージシャンもK-POPという枠にはめられ るのを意図的に避ける傾向もあった。ところが、「江南スタイル」 の爆発的なヒットを機にK-POPが注目を集め、BTSが世界に進出して以降、状況は次第に変わりつつある。K-POPという単語がもつネガティブなニュアンスや韓国の大衆音楽、特にアイドルにたいするメジャーシーンの偏見はかなり少なくなり、外国のアーティストもK-POPにオープンな姿勢を見せるようになった。ビジネス的な成功を目指してK-POPアーティストと コラボレーションするのはもちろん、それによって自身の音楽がK-POPとして消費されることへの警戒心もぐっと薄れている。今では、インディー・ロックやフォーク、アンダーグラウンドのヒップホップのように非商業的なミュージシャンを除いて、韓国(あるいは韓国系)のほとんどのポピュラー音楽は、 事実上K-POPにカテゴライズされている。もはやK-POPではない音楽を探すのは難しいほどで、結局、K-POPの概念は、そもそもの意味である「韓国ポピュラー音楽」に近いものになっ ている。

K-POPの世界化は、予期せぬ展開ももたらした。K-POPという「産業」あるいは「技術」によって作られた外国人アーティ ストが誕生したのだ。それらをK-POPにカテゴライズできるのか。K-POPが長年積み重ねてきた「現地化」のノウハウは、 K-POPをジャンルではなく、ひとつの技術やモジュール、つまり産業の「枠組み」にした。K-POPの芸能事務所が手がけた海 外(現地)のグループがその例だ。JYPが生んだ日本のアイドルグループNiziUや、SMのWayVなどは、明らかにK-POPの企画や資本、システムで作られたグループであり、企業の立場から見て他のK-POPグループと本質的な違いは存在しない。 K-POPの芸能事務所がアメリカの資本と手を組んだり、共同投資でレーベルを立ち上げて現地でK-POP(型)のグループを作ったりする手法は、K-POPの未来形として定着するだろう。 SMのSuperMはこのような方法でアメリカ市場を攻略し、 HYBEはユニバーサル ミュージック グループとタッグを組んで、アメリカ現地の人々を対象にK-POPスタイルのアイドルオーディションを進めている。韓国内外の多くのグループが、 すでにこのようなフォーマットが音楽業界の未来であると認識し、それぞれ異なる形のグループを準備している。では、 K-POPという単語は、このような状況でも同じ概念を維持することができるのだろうか。

さらに重要なのは、わたしたちがいつまでK-POPという言葉を固守するかということだ。韓国ポピュラー音楽の世界化が普遍的な流れとなり、若者カルチャーとポピュラー音楽のトレンドをリードする段階に入った今、「K-POP」という名称でくくる西洋的な(あるいはアメリカ的な)カテゴライズ方法は、 どことなく時代遅れな感じを与える。韓国のポピュラー音楽が韓国スタイルの洋楽を意味する状況において、「K」というアルファベットは、国籍以外に特に意味を持たない。依然として K-POPという名称は海外マーケットで韓国ポピュラー音楽をより効果的にPRするための手段であることは事実だが、究極的にはそれすら大きな意味を持たない可能性が高い。すでに一部の音楽配信サイトでは、韓国のポピュラー音楽をアメリカのポピュラーミュージックと同じジャンルにカテゴライズし、サブカテゴリーに国名を記すようになっている。韓国のポピュラー音楽はK-POPという非音楽的な要素でくくった枠ではなく、ヒップホップ、ロック、エレクトロニック・ミュージックといったジャンルの中で、海外の歌手と勝負するのだ。これはひとつの進歩であり、20年前にK-POPが「世界に進出する」 と宣言すると同時に生まれたひとつのミッション、あるいは運命といえる。

辰巳出版
2025年6月6日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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